昔話ノ章 湖底楼と赤鬼の伝説

3/4
前へ
/45ページ
次へ
 ある日、なんの前ぶれもなく、全身が真っ赤な少年が城内にあらわれました。  兵たちが警戒して剣を構えても、平然としているようすは不気味です。  彼は王を呼び出すように言い、こう告げました。 「ふたたび、王家の中から一人、姫を楼主に差し出せ」と。そして自分のことを「森の奥の湖底楼。その楼主から遣わされた赤鬼」と名乗ったのです。  しかしそのときの王さまは、湖底楼の存在も赤鬼の話も知らず、赤鬼をぞんざいに扱い、要求も無視しました。  赤鬼はその日、なにも言わずに帰っていきました。  それから、ポラリス王国には不吉なことが続きました。  悪天候が続き、海辺に出た人が何人も行方不明になり、備蓄していた食料が急激に減ったのです。  国民の中からはドラゴンの再来の予兆ではないか、あるいはそれ以上の厄災が訪れるのではないかと不安の声が上がり、王さまの力で抑えきれる限界をすぐに迎えてしまいました。  王さまは森の奥にいる、湖底楼の楼主のもとに娘を一人、つれていきました。そして王国に起きている原因不明の災厄の数々が楼主の仕業であることを確認したうえで、娘を引き渡しました。  王さまは愛娘をいけにえにしてでも、早く国を平和にせねばならないという責任を背負っていたからです。  楼主のもとに姫が連れていかれて間もなく、王国の空は晴れ渡り、食料が不足することがなくなり、海で人が消えることもなくなりました。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加