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「本当にありがとうね。ここまでで大丈夫だから」
私は預かっていた荷物をおばあさんに渡した。
「いえいえ、とんでもないです。困っていそうだったので……当然です」
学校の帰り道、私は大きな荷物を抱えたおばあさんがいることに気が付いた。腰が曲がっていて、今にも態勢を崩してしまいそうなほど大きく、高齢の女性にとっては重そうな荷物を抱えていた。
周りの人たちはその様子を見ても足を止めようとしなかった。そんな状況に、私はいてもたってもいられなくなって声をかけた。
「これ、せめてもの気持ちだけど受け取って」
おばあさんは饅頭のようなものを私に差し出した。
「受け取れないです……お礼が欲しかったわけではないので」
そんなこと言わずに受け取って……気持ちだからと言われ、お饅頭のようなものを受け取ろうとおばあさんの顔を見たとき、おばあさんは何かに気づいた表情をしていた。
「もしかして……優里ちゃん?」
どうしてこの方は私の名前を知っているのだろうと、一瞬気を張ったが、私もすぐに思い出した。
「田中さん……ですか?」
「そうよ。覚えていてくれてありがとうね。ごめんなさいね、私ったら気づかなくて……。今日、あの子は一緒じゃないのかしら?」
あの子……か……。恐らく、真理子のことだろう。
「真理子ですか? そうですね……」
「あら、それは残念ね。真理子ちゃんにもちゃんとお礼を言いたかったのだけれど、仕方ないわね。ところで、もしよければなんだけど、この後私の家でお茶でも飲んでいかない? お礼をしたいの」
「すみません、お気持ちは嬉しいのですが、この後、塾があるので……」
本当は特に予定があったわけではなかったが、真理子のことを尋ねられそうな気がしたので、私は早くこの場を去りたい思いだった。
「そう……。それなら……また今度改めてお礼をさせてちょうだい。真理子ちゃんにもよろしく言っておいてくれないかしら?」
「わかりました……」
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