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その場がまた緊張する。
犯人はいったい誰なのか?
ジェイムズの家族? たとえば、伯母が? 厳しいけど召使いをかばうなど、思いやりのある伯母を、ジェイムズは尊敬していたが、未婚だ。まさか、それで指輪を使って逆プロポーズでもするつもりだろうか?
あるいは忠義な小間使い?
テレーザが盗人とは思えないが、ほんとはお金に困っているとか?
それとも友人たちの誰か?
可愛い女の子に告白するため?
たとえば、指輪をはめたのを見たというルーシサスの言葉が嘘なら、彼には盗む機会があった? 一人だけ水遊びをしてないし、席もジェイムズに近い。
ドキドキしていると、ワレサが述べる。
「ジェイムズさまは髪をふき、席につく前に指輪をはめていた。そうですね?」
「たぶん。ルーシサスもそう言うし、なんとなく、そんなおぼえがある」
「だとしたら、そのあと、あなたの手から指輪をぬきとることができたおかたは、お一人しかありません」
「そんなわけはないよ。誰も僕のそばには来なかったし、ましてや手にはふれなかった」
「ほんとに? ほんとにそうですか? よく思いだしてください」
ジェイムズは考えた。しかし、伯母や母に手をたたかれるほど悪いことをしたおぼえもないし、小間使いがジェイムズの手にさわるはずがない。友人たちは遊びの最中なら手をつないだり、肩を組んだりもする。しかし、飲食のときには、カップやティーフォークで手がふさがってるのだから、それはない。
頭をひねるジェイムズを見て、ワレサがため息をついた。
「幼な子というのは、誰の目にも透明なのです。ふれたがったり、手をにぎってきたり。でも誰も気にしない。小さな子というのは、そうしたものだから。そこに意味なんて存在しないからです。ジェイムズさま。あなただって、さっきから何度もジュッペさまに手をにぎられていますよ」
おどろいて、ジェイムズはジュッペを見なおした。小さな妹は自分のことを言われていると理解したのか、嬉しそうにジェイムズの手をにぎりしめてきた。
そう言われれば、ほとんど意識してさえいなかったが、ジュッペはずっと周辺をウロチョロしていた。
「まさか、ジュッペが?」
「はい。おそらく」
「でも、なんで? 妹は指輪の価値なんてわかる年じゃないはずだ」
「価値はわからなくても、キラキラしてキレイですから」
ジェイムズは妹にとびついて、両手をひらかせた。服のなかやポケットなど、隠しておけそうな場所を調べる。
「ないよ。ジュッペは持ってない」
「そうでしょうね。指輪はたぶん、僕の頭のどこかにあります」
「えっ?」
「自分では見えないのですが」
そのとたん、ジュッペが踊りながら、ワレサのほうへかけていった。
「キラキラー! お姫さまー!」
伯母や母がさわぎだす。
「あら、わたしの帽子のリボンがない」
「まあ、わたしもですよ! サンダルのヒモまで。いつのまに?」
こうして、指輪は見つかった。ジュッペが叱られたのは言うまでもない。
*
「そうそう。思いだした。おまえの妹が、おれの髪にジャラジャラ飾りつけてくれて、『このクソガキめ。さっさとあっちへ行け』って思うんだが、あのころ、おれは猫かぶってたしな。文句も言えないから、ぜんぜん離れてくれなくて」
「君のことを本のなかのお姫さまだと思ってたみたいだよ。まさか、だから君は、私のうちに遊びに来てくれないのかい?」
「ガキの相手は疲れる」
「もうジュッペも十三歳だよ。それに、花やリボンもけっこう似合ってた」
「うるさいな」
そのとき、ようやく、釣り竿がしなった。
「ジェイムズ。来てる、来てる」
「ああ。任せてくれ」
そういうジェイムズの指には、あの指輪が光っている。今のところ、まだ必要ないらしい。誰かに求婚する予定はないということだ。
当分は男友達と、のんびり釣りをする。そんな毎日だろう。
了
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