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第三話 透明な季節
皇都のまんなかにある学生たちの寮。
第一校は騎士学校と呼ばれ、貴族の子息だけが通う男子校。第二校は金持ちの商人など、平民のための男子校。そして、第三校が貴族の子女が通う女子校だ。
第三校は男子禁制。
とくに寮内へは特別な事情がなければ、男が入ることはゆるされない。教師もすべて女だ。
その少女たちの園へ、ワレスが呼ばれたのにはわけがある。
「あーん、ワレス! 助けてよ。ボク、捕まっちゃう!」
信じられない。
由緒正しい伯爵家の姫君のくせに、こいつはまた、こんな事件をひきおこしたのか……。
アズナヴール家のマノンだ。以前、別の事件で知りあった。見ためはとても可愛い男装の美少女なのだが、性格が奇抜すぎる。
それにしても、同じ寮生を毒殺した嫌疑がかけられているとは、令嬢にあるまじき、だ。品行方正になるようにと、いよいよ娘を規律の厳しい女子校に入学させた父伯爵は、さぞや嘆いていることだろう。
「女子校に入って、おとなしくしてるかと思えば、おまえときたら、また問題を起こしたのか? 正直に言え。ほんとは、おまえがやったんだろ? なんで友達を毒殺なんかしたんだ?」
「ボクじゃない!」
「ほんとか?」
「うん。会いたかったよ。ワレス。ボクの王子さまぁー」
「だから、おまえの王子じゃないからな」
「だって、ボクの知るなかで、ワレスがダントツ美形なんだもん。一番! 一等! 金髪も青い目も好き」
「…………」
男子禁制の女子寮に、ふつうの方法で、ワレスを呼び入れることはできない。まさか、ワレス会いたさに友達を殺したのか? と思わないでもなかった。マノンなら、それくらいはする。
「とにかく、いったい、どんな経過で事件が起きたんだ? くわしいことを聞かせてくれ」
「うん! ここ、すわって。すわって。キスしてもいい? ほっぺでいいからぁー」
「…………」
聞けば、こういうことだ。
女子校は朝から晩まで授業があるわけではない。男子校より圧倒的に授業の時間数が少ない。たいていは午前中にすべての科目が終わり、午後は友達同士でサロンをひらくのだそうだ。
昨日、マノンは仲のいい同級生数人と、お茶会をしていた。茶会にはそれぞれの家から送られてくるお菓子を順番に持ちよる。昨日はマノンの番だった。
「メレンゲをジャムやクリームでデコレーションしたやつだったんだ。甘くてカリッとして、サクサクで美味しいんだよ」
「知ってる。その菓子に毒を盛ったのか?」
「だから、ボクじゃない!」
「でも、友達はおまえの持ってきた菓子を食って死んだんだろ?」
「……うん」
メレンゲを焼いたスイーツは、少し前からの皇都の流行りだ。かるい口あたりで貴婦人に好まれている。
メレンゲじたいに毒を入れるなら、焼く前に卵白と砂糖を泡立てる段階で混入するしかない。しかし、女子校には少女たちのための台所はないから、毒が入っていたとしたら、ジャムかクリームのトッピングだろう。それなら、あとからでもまぜられる。
「その菓子はおまえの生家から送られてきたのか?」
「うん。昨日の朝、じいやが持ってきてくれたよ」
「最初から皿に盛られて、クリームがかかってたわけじゃないよな?」
「メレンゲは蓋つきのお皿に載せて、ジャムとクリームはビンに入ってた。食べる前に小皿に移しかえたんだ」
「それで、死んだのは誰だ?」
「エクエレンテだよ」
「お茶会なら、ほかの女の子もお菓子を食べただろう?」
「それが、お茶会の始まりで、ほかの子が食べる前だったんだ。エクエレンテは昨日のサロンの主催者だったから、みんなよりさきに食べたの」
「で、食べたとたんに苦しみだした?」
「うーん? どうだったかな」
肝心のことをおぼえてない。
「その茶会には誰々が来てた?」
「えっとね。マリーとジュリーとフランソワーズとアントワーヌ」
「その子たちと話せるかな?」
「えっ? ヤダ。会わせたくない」
「なんで?」
「ワレスはボクの王子さまだからだよー」
「…………」
やっぱり、マノンがやったんじゃないのか?
少なからず疑ってしまうワレスだった。
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