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本来、父兄や男子が女子寮に入れるのは面会室だけだ。
そこで、ワレスは友人のジェイムズを手紙で呼んだ。ジェイムズは裁判所が独自に持つ調査機関の役人なので、こんなときに重宝する。
「ワレス。寮長に交渉してきたよ。事件の解決のためだから、なかに入っていいって。そのかわり、半刻(一時間)で解決しなさいって」
「いくらなんでもムチャじゃないか?」
「しかたないよ。頭のかたいご婦人だから」
ワレスはふところから黄金細工の懐中時計をとりだした。今から半刻で謎が解けるだろうか?
でも、それをしなければ、マノンは人殺しの罪で咎人の塔に一生、幽閉されるだろう。庶民なら人を殺せば打ち首だが、貴族なので刑がかるい。それでも、一生を暗い塔で一人すごすのは、想像するだけでもつらい。
なんとか事故だったことにして、相手の遺族と示談をまとめるしかない——と、ワレスは考えていた。
さて、いよいよ、ワレスはジェイムズとともに女子寮へ入る。玄関ホールわきの面会室を出ると、廊下に女の子があふれていた。十二、三から十六、七歳の少女がいっせいに、ワレスをかえりみる。
「キャア。なんて素敵な貴公子なの?」
「きれいなブロンド……」
「王子さまみたい」
こうなることは目に見えていた。自慢げに、マノンがワレスの腕にぶらさがる。もしかして、これがしたかったから、友達を……。
とにかく、時間が制限されているので、急いで、マノンたちが茶会をしていたという小サロンへ行った。ジェイムズが段取りよく、関係者をこの部屋に集めている。
マリーもジュリーも初々しい少女だ。よくいる深窓の令嬢である。フランソワーズは将来、美人になりそうだ。アントワーヌだけ、ちょっと毛色が違う。ややぽっちゃりして、それはそれで可愛らしい。
みんな、青春のさなかにあるからだ。生命にあふれる小鹿のようなものである。
小サロンに入ってきたワレスを見ると、少女たちはみんな真っ赤になった。そのくらいものすごい美男子だ、という自覚は、ワレスにもある。
「昨日の事件の話を、みんなから聞かせてほしい。エクエレンテが倒れたときだけど」
少女たちはワレスの美貌に目をくらませて、なんでも話してくれた。
「エクエレンテはね。昨日は頭痛がするって言ってたよ。あの子は雨が降る前に、よく頭痛がするのよね」
「でも、昨日は雨、降らなかったけどね」
「お菓子を食べて最初に感想を言うのが、ホステスの役目なの。だから、エクエレンテが食べて」
「そのあと、急に倒れたの。椅子がよこ倒しになって、エクエレンテは胸をおさえてたわ。青くなって、泡をふいて」
「怖かったよね」
「ねえ」
マリーとジュリーは双子のように息ピッタリで、よくしゃべる。
「お菓子を食べてすぐ、か。即効性の毒ということか? そのとき、エクエレンテはトッピングには何を?」
「生クリームよ」と、マリー。
「いっしょにお茶は飲まなかったのか?」
「飲もうとしてるときに倒れたから」と、ジュリー。
つまり、茶会で口にしたのは、マノンが提供したメレンゲだけ。これは確実にメレンゲに毒が入っていたことになる。
「ちなみに、この少し前に昼食を食べたとか?」
「昼食はみんなが同じものを食堂で食べるのよ」と、マリー。
「みんなは食べてなくて、エクエレンテだけが口にしたのは、お茶会のお菓子だけ」と、ジュリー。
ということは、やはり、マノンが友達を……?
マノンを見ると、顔をひきつらせて首をふる。
「ボクじゃないよ!」
信じてやりたいのだが、なかなか、そうできるだけの証拠が出てこない。
「じゃあ、その菓子は誰が作ったんだ?」
「ボクのお母さまだよ。お母さまはお菓子作りが趣味なんだ」
マノンの母親はごく常識的な貴婦人だ。娘の友達を無差別に殺そうとするとは考えられない。
「その菓子、残りはどうした?」
「もちろん、すてたよ」
保管してあれば、毒入りかどうか調べられたのだが。
「菓子を盛りつけたのは?」
マノンがまっすぐ手をあげる。
「ボクだよ」
「一人で?」
「えーと、アントワーヌが手伝ってくれたかな」
ぽっちゃりの子が青くなった。
「えっ? わたし? わたし、毒なんか入れないわ」
「しかし、君とマノンには機会があった」
「わたし、そんなことしない!」
グスグスと泣きだしてしまった。
どうやら、エクエレンテを殺すことができたのは、マノンとアントワーヌ。この二人だけだ。
それにしたって、育ちのいいお姫さまの集まりだ。即効性の毒なんて、どこで手に入れたのだろうか?
また、友達を殺したいほど憎いと思うことがあるのか?
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