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兎角この世は生き辛いーー責任の99.99……%以上が赤の他人の大衆によるエコライフならぬエゴライフとグローバル至上の経済活動の産物である酷暑の候ならば尚のこと。
「空っぽなのにー♪」「生きてるねー?」
「空っぽだからー♪」「生きてけるー⭐︎」
ちょうど一年前にアップされた動画。極彩色で露出多めのコスチュームに身を包んだアイドルが絶叫寸前のハイテンションなアニメ声で、画面からはみ出さんばかりに歌い躍っている。
「誰よりも輝いてるのに、誰にもわかってもらえないア・タ・シ⭐︎」
「カースト上位なんて、スッカラカンのカスじゃない?知性感性空気読み♪全部女神なアタシが優勝!」
「キタよ♪キタキタ♪キラキラ⭐︎キラルン!カリスマ♡キラルン」
この最高にキャワワでパンクでクールな新曲動画を配信した数日後、彼女は自殺を図った。
動画配信サービス中心に活動、十代、二十代の女性を中心にカルト的な人気があったアイドル「キラルン」。明るい笑顔と前向きなパフォーマンスの陰では、一部ユーザーからの執拗な誹謗中傷に深く傷つき悩んでいたとされる。
一年後のこの日、ついに彼女の家族が悪質な書き込みの主達を訴えた。
「 盟花。お母さんもう仕事行くけど……」
熱中症警戒を知らせる防災無線と被るように、身支度を終えた母親が部屋のドアから顔をのぞかせた。盟花はスマホをいじりながらベッドに横たわったまま曖昧な返事をした。
「辛いようなら、カウンセリング予約しておこうか?」
母もリビングのテレビか新聞で、盟花がさっきサイトで見つけたあのニュースを目にしたのだろう。
「大丈夫。それに今日、熱中症アラートだから不要不急の外出禁止だって」
「そう」
母は小さく頷いた。
「梅雨が明けると毎年サバイバルね。あなたが生まれた頃の夏はもう少しマシだったし、それなりに楽しい季節だったんだけどーー夏休みだって熱中症で死者を出さないための避難休暇みたい」
珍しくブラックジョークまで言って、あくまで明るく嘆いてみせる母。
ーーだったら不登校引きこもりって、もはや公認の最強じゃん?
いっそそう開き直って空元気でも出せたら少し楽になれるのかもしれない。
「そう言えばね、担任の先生が終業式だけでも来てみないかって」
「ううん……」
「ああ、無理にって事じゃないのよ」
サッと暗くなった盟花の顔色を察して、母が敢えて何でもなさそうに言ったのがわかる。
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