1.同期の彼

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同期の中のニックネームで自分を呼ぶ楓に、星野は笑いかける。 「三連休前の金曜に暇なヤツいないよな」 どうせ私は暇ですよ、という言葉を楓は飲み込む。ただタカノで飲みたかっただけだとしても、名分は楓のために来てくれているのだ、一応。  星野は自分の隣の席に楓を促すと先に頼んでいたビールを飲み干した。 少人数で飲む時はこのスペインバル・タカノを使うことが多い。 オフィス街でどの店も大概予約しないと待つことが多いのに、タカノはリーズナブルな値段な割に駅とは反対方向なのでフラッと立ち寄ってもテーブル席一つは空いているからだ。 しかし、連休前のタカノはそこそこ混んでいて、今日に限ってはカウンターしか空いていなかったらしい。 楓は促されるまま星野の隣に座り、カシスオレンジを注文した。 「遅かったな」 「誰のせいよ」 届いたカシスオレンジと星野が追加で頼んだビールで乾杯をする。 楓は星野から頼まれた資料を作成していて少し残業していたのだった。 連休明けの火曜日午前中までと言われていたが、その日の午後の営業先に持っていくと言っていたので、今日中に送ってあげたかったのだ。 営業先がどんな会社なのか、前任者の楓はよく知っていたから。
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