1.同期の彼

4/6
前へ
/129ページ
次へ
「メールで送っといた。連休の間、確認したいかな、と思って。私もチェックしたけど星野くんも隅々まで見ておいてね」 仕事の話の時は流石にニックネームでは呼ばない。自然と公私を分ける楓に星野から笑みがこぼれる。 急ぎでとは頼んでいなかったのに。だが早くデータを貰えるのは助かる。特にこの取引先に於いては。 「サンキュ。助かるよ、山下」 星野はタブレットを取り出しメールが届いているか確認する。 ざっと確認すると、依頼していたのと他に、頼んでいない資料(もの)も添付されていた。 パッと見て、星野はヒューッと、感嘆の声を上げた。  「使えるでしょ、それ?」 自分の作ったモノに自信を滲ませた声で楓が問いかける。 商談先の部長、立石(たていし)が欲しがるポイントを押さえている。 立石が食い入るように資料を見る姿が脳裏に浮かんだ星野は、楓を見て口を開いた。 「ありがとうな、使わせてもらうよ」 楓に感謝しつつ、つくづく彼女が営業から異動になったのを惜しく思うのだった。 ※ 仕事の話はこれで終わり、と星野が告げたのは、彼がビールからサングリアに切り替えた時だった。 酒の弱い楓はトニックウォーターで喉を潤しつつ、料理を味わっていた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

914人が本棚に入れています
本棚に追加