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「……この子から父親の記憶をすべて消した。これで、この子は復讐に縛られることもないし、過ちを犯すこともなく幸せに暮らせる」
それだけ呟くと山道を登ろうとする。しかし、それだと納得がいかない煌君だった。
セイ様に怒りをぶつける。
「冗談じゃねぇーよ。勝手なことをするな。頼んでもいないのに、勝手に父親の記憶を消すとか正気か……お前は!?」
き、煌君……。しかしセイ様は無表情のままだった。
「……記憶を消す方が、この子のためになる。醜い復讐は自分の身を滅ぼすだけだ。こんな弱く小さい子がキョウ様に勝てるはずもない。お前もな」
それだけ言うと行ってしまった。煌君は、追いかけようとするが、私は必死に止めた。それ以上は危険だからと……。
「くそっ……あの野郎」
「煌君……ダメだよ。それよりも、あの男の子を早く助けてあげて」
他の妖精達が見つかる前に逃げないと。きっとセイ様は、キョウ様に知らせるだろうし。私は焦りながら煌君に言う。
煌君は悔しそうな表情をするが、男の子のところに向かう。触ると息をしていた。
あ、本当だ……生きている。
私はホッと胸を撫でおろした。良かった……本当にセイ様は殺していなかった。
どうやら記憶を消しただけだったらしい。しかし、そのような事が出来るとは。
すると煌君は、クマの男の子を抱っこすると立ち上がった。そして行こうとする。
「煌君。一度秘密基地で、この子を休めさせたら」
そう煌君に言うが。煌君は背中を向けたまま、
「やはり妖精族と獣族は馴れ合えない。俺は、妖精族が嫌いだ!」と言ってきた。
「えっ……?」
「もう俺と関わるな。お前は妖精族。俺らの天敵だ!」
「煌く……ん?」
煌君の見る目は軽蔑を見るような目だった。冷たくて無表情だった。
そのままクマの男の子を抱っこしまま去って行く。私は一瞬何を言われたか理解が出来ずにいた。ボー然としながら立ち去って行く煌君をただ見ていた。すると。
「あ、居た。カレン。何処に行っていたのですか!?」
小さい姿になったルイがこちらに来た。なかなか帰って来ないから捜していたのだろう。
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