リリスブックス

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そのもみじのように小さな掌にはいつ拾ったのか破魔矢を握りしめていた。 「り、リリたん、らめら」 気づいた碧が止めようとするがダメージで動けない。 リリスは破魔矢を父に向かって差し出す。 決意した瞳でまっすぐに碧の父を見つめ、ぐっと破魔矢を押し付けた。 父は目の前の少女が何を言いたいか理解した。 「リリス!」 碧が叫ぶ。 リリスが碧の方に振り返りつぶやいた。 「あ、りがと」 その時、頭上でまばゆい光が怒号と共に闇夜を支配した。 碧もリリスも駒割部長も天を仰いだ。  警察官たちも学校の龍田教師も街の人々も地平線の切れるところまで人々はその光を見た。 天空に向かってドラゴンは巨大な口から劫火を吐いた。  それは大気圏を抜け、空高く月まで届きそうな威力で光の柱を作った。 《悪魔ノ劫火》は地上に放たれなかったのだ。  父はその光景に頭の中で整理がつかず、茫然と立ち尽くしていた。  次第に空が明るくなり夕日が再び街を照らした。  「まったく!」  天空からエキドナが怒りながら舞い降りてきた。  「もう少しだったのに!」  翼をたたみプンプン怒りながら開いた本を拾って父の足元に投げつけた。  「私はその少年と約束したんだ。どんな願いも叶えてやるってね。まったく厄介な事願いやがって!」  父は夕日に照らされたエキドナを見つめた。  「やれよ。どうせお前ら下等で下世話な人間どもに私達を完全に葬る手段なんてないんだ。また1000年でも2000年でも閉じ込めればいいよ。でもね」  エキドナもスタスタと歩きリリスの横で腕組みをして碧の前に立ちはだかった。  「これ以上、あたしらの『友達』を殴るな!」  碧はエキドナを見つめ、リリスは姉の顔を見てにっこり笑った。エキドナはリリスに微笑み手を繋いだ。  リリスはエキドナのワンピースに捕まって目を閉じた。エキドナもリリスを抱き寄せ目をつむった。  碧の腫れあがった目から涙が流れる。  その光景を見た父、神宮前翠(じんぐうまえみどり)は緊張の糸が解け腰が抜け座り込み、頭を抱えると吹き出して笑い始めた。  エキドナとリリスは驚いて父を見た。  「なんなんだ、お前ら、『ともだち』って悪魔のくせに、わははは」  そして父は遂には笑いながら寝っ転がった。  「くっさ」  父は更に腹を抱えて笑った。  「とう、さん?」  笑い転げる父を碧は見つめた。  オレンジから濃紺に変わるグラデーションの空。頬を通りぬける風。 父はしばし沈黙してぼーっとドラゴンの居なくなった、いつもの夕焼けを見つめた。  「いつからこんなオッサンになったんだろうな」  遠くからパトカーのサイレンの音が再び鳴り始めヘリコプターが上空を何機も飛んでいる。  街の明かりが次々に灯っていき大禍時を優しく包み里山の頂上から人々の温もりが感じられた。  父は体を起こしあぐらをかくと膝を叩いた。  「よし、なんとかしてみっか」  父は烏帽子をリリスに被せた。リリスはキョトンとしてエキドナは眉を寄せて父をみる。  「こっからが大人の仕事だな」  父はにっこり笑う。  碧は力が抜け寝っ転がった。 「あのー、終わった? 終わったの?」  駒割部長は茂みから制服を頭に巻いた姿でひょっこり顔を出した。
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