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俺は心の中で二つの靴に話しかけた。
『お前達、彼女の足をちゃんと守るんだぞ。どんな衝撃にも負けないように、強く優しく守ってくれ。よろしくな』
ローファーとトーシューズ。二足の新しい靴。先端が丸く削れたローファーはトーシューズにはなりえない。ローファーでは空は舞えない。でも、学校に履いていくにはしごく快適な靴でもある。
彼等を眺めていた俺にえりかさんが云う。
「おじさん、これ、履いてみてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
ニッコリと笑った彼女はトーシューズを履いて、店の中をくるりと踊りながら歩く。店のスポットライトが全身を照らしてまるでステージに立つバレリーナのように足元から輝いてみえた。
「私も学生の時にここで祖母からローファーを入学祝いに作ってもらったことがあったわ。でも、その時は特典なんて無かった気がするんだけど。鳩目君の代で変わったの?」
瑠美さんが俺に問う。
「永らく当店をごひいきにしていただいていて、本当に嬉しい限りです。靴は人生に寄り添う大切なもの、お客様ご自身の人生に似合うものを見つけたらもれなく提供するのが私が作る靴のモットーです」
力が抜けたように優しげな声音で礼を云う瑠美さんに笑みを返した。彼女はくるくると愉しげにステップを踏んで歩く娘に視線を向けて愛おしそうに微笑みながらポツリと言った。
「あんなふうに笑ってるの、久しぶりに見たわ。鳩目君、あなた、商売うまいわね。またオーダーメイドで何かお願いしようかしら」
「はい、いつでもお待ちしています。
これからもどうぞよろしくお願いいたします」
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