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「だったら、そのお金をみんなに」
「おまえは、本当にやさしいな。でもな、そんないい人ばかりじゃないんだ」
「そんな、ひどいよ」
「……そうだな。その気持ちを忘れずに生きてくれ」
最後にかわした父との言葉は、今も少年の頭に焼き付いている。
少年の父の働く工場は、AIの進化により自動化が進み、従業員の多くは不要となった。
浮いた人件費は、すべて会社の発展にあてられた。
その結果、今では誰もが知る巨大な企業となった。
人のためにすることが仕事だ。
誰かの明るい未来のために働くんだ。
苦しんだ分、誰かが幸せになる。
みんながそうすれば、みんな、幸せだろ?
子どもにはまだわからないこともたくさんあったが、父のその言葉と背中に、少年は憧れを抱いていた。
ゆえに、その反動はあまりにも大きかった。
家庭環境は崩壊し、やさしかった父はいなくなった。
少年は、固く拳を握りしめた。
なにがAIだ。
なにがテクノロジーだ。
全部、ぶっ壊してやる──。
しかしやさしかった父は、おまえは本当にやさしい、その気持ちを忘れずに生きろ、とも言っていた。
少年は悩み、葛藤し続け、一つの方法にたどり着いた。
大人になった少年は今、社長として商談をしながら、込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。
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