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銀色の髪に青い瞳の、モデルのような女性がお盆を持って現れた。
「オマタセシマシタ」
男が一瞬首を傾げた。
片言ではあるが、未熟なAIの発音ともとれるイントネーションだった。
「彼女、ハーフなんです」
「そう、ですか」
エリーを見つめていた男だったが、エリーにウインクをされ、頬を赤くして目を逸らした。
「まぁ、ハーフと言っても、色々ありますけどね」
ボソッとつぶやいた桜井に、男が身を乗り出す。
「そ、それは、まさか機械と人の──」
言いかけた男の口元に、エリーが人差し指をそっと立てる。
「ドウゾ、サメナイウチニ」
「あ、ありがとうございます」
エリーは妖艶な笑みを浮かべ頭を下げると、垂れた髪を後ろへと掻き上げた。
男の視線が、一瞬見えた首元に、釘付けになる。
「どうかなさいましたか? お客様」
「い、いえ、あの……ちょっと急用を思い出したので、また後日」
「ええ、お待ちシテマスヨ、オキャクサマ」
桜井はニコッと笑い、男を見送った。
「エリーちゃん、ナイス、素晴らしいよ」
「もう、ヒヤヒヤやったわ。あかんで、あんないたずら。ほどほどにしときや」
「ごめんごめん、でもいい宣伝になるね」
「ほんまに、人を騙してばっかりで。なんやねんな、最後の片言」
桜井は見抜いていた。
客は、同業者だ。
詐欺師を騙しているなど、夢にも思わなかっただろう。
目的は社内の偵察と、粗探しといったところだろう。
AIの開発が競争と化している昨今、こんなことも珍しくはない。
それを危機と捉えるか、チャンスと捉えるか。
桜井は、クククと笑った。
愉快で仕方ない。
そうやって欲を出すから、騙されるのだ。
今度はこっちが利用してやる番だ。
先ほどの男はこの後、界隈に言いふらすだろう。
桜井カンパニーには、秘密がある。
桜井カンパニーには、人間などいない。
創業者さえも、高性能なAIを搭載した、ロボットだ。
〈おわり〉
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