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桜井はフゥッと息を吐き、尊いものを見るような眼差し向けた。
客はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「我々にとって、お客様は、先導者なんです」
「私が……先導者?」
「そうです。お客様となにを食べ、どんな会話をし、どんな時間を過ごしたか。その経験が、弊社のAIを進化させ、人類を一歩先へと導くのです」
「いやいや、それはちょっと言い過ぎじゃ……」
「お客様、おこがましいのですが」
「……なんでしょう」
桜井は深く頭を下げて言った。
「お客様、我々を……どうか未来へと、導いていただけないでしょうか」
客が帰った後、桜井はサインの書かれた契約書を見つめ、ククク、とほくそ笑んだ。
腹の底から、笑いが込み上げてくる。
商談中も、悟られないように取り繕うのに必死だった。
桜井カンパニーには、秘密があった。
昨今、こうした一般人向けの人型ロボットを研究し、開発し続ける企業が急増している。
それらは一貫して、常に目指しているものがある。
それは、より人間に近いロボットだ。
それだけを目指して競い合っている。
桜井は、そこに目をつけた。
カンパニーの秘密は実にシンプルだ。
この会社に、ロボットなど、存在しない。
レンタルしているのは、ただの生身の人間だ。
桜井カンパニー創業者の桜井は、AIやテクノロジーとは無縁の、詐欺師だ。
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