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目的地に着き、アパートのインターホンを鳴らした。
「どうも、桜井カンパニーです!」
「あ……どうも」
ボサボサの頭がぺこりと頭を下げた。
豊満な体型に似合わない、ボソッとした声で出迎えた一人暮らしの男性の目は、泳いでいた。
リカを見て、興奮を無理矢理押し殺したような、見え透いた素っ気ない態度をとっている。
危険な香りを察知した桜井は、瞬時に頭を回転させ、明るい口調で言った。
「彼女の目から得た情報は、安全のため、常時我々の監視のもとにあります」
リカは咄嗟にそれに合わせ、カラーコンタクトの入った目で、男性の目をいたずらっぽく覗き込んだ。
「そ、それは、と、盗撮されてるのと、一緒じゃないですか!」
男性の頬と顎の肉が、激しく揺れた。
もっともな意見だが、桜井は表情を崩さない。
こんな時は、とにかく明るい人でいることが大切だ。
詐欺師の鉄則だ。
とにかく明るい顔で、頭を巡らせた。
「お客様」
「はい?」
「安心してください、見えませんよ」
「……どういう事ですか」
「監視しているのも、AIです。何事もなければ、自動で消去されます」
「あぁそうか、それなら」
「安心してください、見えませんよぉ」
リカはお茶目な笑みを浮かべると「よろしくお願いしますぅ」と頭を下げた。
綺麗に切り揃えられた前髪と襟足が、軽く弾む。
色々試した結果、なぜかわからないが、この髪型が一番それらしく見える。
簡単な説明を済ませ、桜井はアパートをあとにした。
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