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第一章 7年後
夏休みがはじまって一週間がすぎた。
俺は今日から幼なじみの別荘で二週間を過ごすことになっていたから、少しはやめに起きて荷づくりをしている最中だった。
不意に玄関のチャイムがなる。
俺はどきっとし急いで手を動かした。少しして階下から叔母の佳子さんが呼ぶ声がした。
「灯世ー!真夏くんがきたわよ」
俺は心の中で舌打ちをしつつ、
「はーい!今いく!」
たたんである服を乱暴にリュックに詰め込み部屋をとび出た。
リビングにいくと弓木真夏が優雅に麦茶を飲んでいた。
「よお、灯世」
「よぉ、じゃねー!お前はやく来すぎ。まだ8時だぞ」
「高速こむから朝移動ねっていったじゃん」
「そりゃそうだけどさ……あれ、ていうか冬真さんは?」
「兄貴なら外だよ。車ん中で待機してる」
真夏はソファにもたれ、サングラスをずらしながらだるそうに答えた。少しパーマがかった校則違反ギリギリの長さの黒髪を耳にかけ、左耳にひとつだけ空いたピアスホールには、去年の誕生日に俺がプレゼントした安物のピアスがはまっている。
「え、この暑いのに車で待たせてんの?なら悪いからはやく行かねえと」
「兄貴なら大丈夫だって。体強いし。それよりまって、俺麦茶のみ終わってないから」
のんきな言葉に、俺はあきれる。
「飲み物なんて後で買えばいいだろ……。いつも思うけど真夏ってさぁ、冬真さんの扱い雑すぎない?」
真夏はわざとらしく切れ長の目をぱちくりとまたたかせた。
「こんなの普通だろ?ていうか灯世が俺の兄貴好きすぎなんだって。冬真さん冬真さん〜って兄貴の機嫌取りすぎててうぜえ」
うしろで佳子さんがくすくすと笑う声が聞こえた。
「冬真くんは灯世のヒーローだものね」
「違いますよ佳子さん。灯世、兄貴のことが好……」
「あああもういいから行くぞ!!」
変な汗をダラダラと流しながら俺は真夏をせっつく。真夏はつまらなさそうに鼻を鳴らし、俺の頭をわしゃわしゃとかき混ぜた。
「のろのろ準備してたやつが、えらそうにいばるな」
俺は小声で耳打ちする。
「佳子さんに変なこと吹き込むな!だいたい……」
「変なことって?」
話している途中で真夏がくるりとこちらを向いた。鼻先がぶつかり、少しでも動いたら唇がふれてしまいそうになる。
まるでにらまれているような、鋭い瞳に釘付けになった。野生的なのにどこか気品のある顔立ちは、冬真さんに似ていて思わず見とれる。
真夏が舌打ちをした。
「やっぱむかつく」
「なにが」
「なんでもねえ。つかそろそろ行くか」
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