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「わけわかんねぇ……」
俺と真夏は佳子さんにあいさつをして家を出た。玄関の前には車が一台とまっている。
真夏が乱暴にドアをノックすると鍵の開く音がした。ふたりで車にのり込むと、運転席で冬真さんがラジオ聞いているところだった。
陽に焼けた浅黒い肌に、引き締まった体。どこから見ても男らしさの権化みたいで惚れ惚れとしてしまう。
「おはよう、灯世」
バックミラー越しに視線が合うとふわふわとした気分になって、俺はだらしなく微笑むしかできなかった。
「はいはい、いいからはやく車出せよ」
真夏が俺の脇をこづきながら、ぶっきらっぼうにいう。
「それじゃ、二人ともシートベルトしめてね」
車が走り出してすぐに、真夏が口をひらく。
「てかさあ、灯世って兄貴とどこまでやったの?」
「?!」
心臓が爆音を奏でる横で、真夏はひょうひょうと続ける。
「え?だってお前ら付き合ってんだろ」
「つ、付き合ってないよっ!!」
「そんなわけないだろう」
すぐさま俺と冬真さんが否定するも、真夏はあざ笑うようにいった。
「正直にいえよ。大丈夫、俺は灯世と友達だし、大好きな兄貴が未成年と淫行してましたなんて誰にもバラさねえからさ」
「淫行なんて、そんな」
冬真さんが苦笑いする。
「ま、言えねえか。さすがに現役の刑事が未成年とヤってるなんてバレたら人生終わるもんな」
「お前いいかげんにしろよ!」
俺は真夏に向きなおる。真夏は横目で俺を見ると、いらだたしげに視線をそらした。
「なんか今日はいつにもまして機嫌が悪いなあ」
冬真さんはたいして気にしていなさそうにのほほんと笑う。俺はひどく申し訳ない気持ちになった。
(ごめん冬真さん……俺のせいだ)
それはつい一週間前。
定期的に通っているカウンセリングからの帰りのことだった。
夏休み前のこの時期になるといつも、頭がひどく痛くなったり、めまいがしたと思ったらいつの間にか意識が飛んでいることがよく起こる。
べつに体が病弱とかそういうわけではない。
原因はわかっている。おそらく両親の命日が近いからだ。
俺は小学六年生のとき、不審者に両親を殺された。夜中ねている間に家に侵入されたらしく、刃渡りの長いナイフを口の中につっこまれ刺し殺されていたそうだ。
後日学校にこない俺を不思議に思い、真夏が俺の家までやってきたときに二人の惨状を発見した。そのとき俺はバスルームで気を失っていたらしい。
警察が室内にふみ込むと、季節外れの羽毛布団の下に、血まみれのタオルケットにくるまれた両親が横たわっていたそうだ。
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