何でクローズの僕が会社公認の恋人なんですか

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「よかったな」  翌日の朝、おはようございますを言う前に、課長にぽんと肩を叩かれた。 「はい?」 「聞いたよ。佐倉くんと付き合ってるんだって? まあ、言いにくいことだから大変だろうけど、僕らは君たちの味方だからな」  課長は優しく微笑んで、一人でうんうんと頷きながら行ってしまった。 何で バレてるの? 顔から血の気が引いた。 昨日のあの騒ぎは、僕たち三人だけしか知らないだろうと考えていたのだけど、石田さんはよっぽど悔しかったのかショックだったのか、同僚の誰かに話をしたらしい。 別に社内で誰と誰が付き合おうと、禁じられているわけではないけど、この組み合わせは意外だったのだろう。 あっという間に広まってしまった僕と佐倉さんの噂。顔が広くて目立つ彼のせいで、僕たちはしっかりゲイカップルに認定されてしまった。 「どうしてくれるんですかっ」  昼休み、休憩所の片隅で僕は佐倉さんに詰め寄った。 「まあまあ。悪いことは言わない。絶対幸せにしてやるから、付き合おうよ」  呑気に煙草を(くゆ)らしながら、佐倉さんは笑う。 「そんな気軽に言わないでください。ただでさえ色々あって、恋愛に関しては悩んでるってのに」 「じゃあ、1ヶ月だけっていうのはどう?」  彼が提案したのは、期限付きの契約恋愛。 恋人のふりを見せつければ、石田さんも諦めるだろうというのが佐倉さんの意見だった。 「無理がありますよ。僕たち、接点なんて何もなかったのに」 「君のことは、わかってるつもりだよ」 「僕の何を知ってるって言うんですか」 「皆に親切だし、面倒な仕事も率先して引き受けてる。資格取るのに、凄い頑張ってるのも知ってるよ」  佐倉さんの口から、自分の話を聞くとは思わなかった。それが好意的なものであることにも驚いたが、そのくらいなら誰にでも言えるだろう。 「それだけですか…?」  佐倉さんは少し間をおいた。 「…田邉 潤」  その名前を聞いて、僕は息が止まりそうになった。 「な、んで…」 「元カレだろ。俺の幼なじみなんだ」 じゃあ、僕のことなんか筒抜けってこと… 「同情、ですか…」
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