作中作

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 呼び鈴を鳴らす。程なくして家主の橋本が扉を開けた。お疲れ、と手に持ったビニール袋を差し出す。 「酒、買って来た」 「サンキュー田中。後で飲もう」  遠慮なく上がり込む。勝手知ったる友の家。お邪魔します、とちゃんと言う。親しき仲にも礼儀ありってね。リビングには既に綿貫がいた。床にあぐらをかき、熱心にスマホをいじっている。 「お疲れ。早いな」  声を掛けるとこちらを一瞥した。おう、という短い返事。俺よりスマホが大事なのか、なんて面倒な嫉妬心は抱かない。中学から二十年近い付き合いの大親友だ。何かやっているな、くらいにしか思わない。 「しかし俺らも暇だよな。土曜の昼から三人とも集まれるなんてさ。お前ら、出掛けたりしないの?」  自嘲も込めて訊いてみる。橋本は肩を竦めた。 「休日は休みたい」 「おっさんか。いや、おっさんだ。もう三十を越えたもんな」 「会社ではまだ若手扱いだよ」 「それは新人が入らないから相対的に若者扱いをされているだけだろ」 「うるさいな。その通りだけど」  そんなやり取りにも綿貫は入って来ない。一心不乱にスマホをいじっている。なあ、と呼び掛ける。橋本は席を外した。 「綿貫。お前はどう思う」  再び顔を上げた。俺と目が合う。ん、と親友は声を漏らした。 「ごめん。聞いていなかった」 「俺らももうおっさんだよなって」 「年上からみたら若造だし二十代からみたらおっさんだ」  至極もっともな回答を述べた。そうだな、としか言えない。奴はまたスマホに視線を戻した。流石に何をしているのか気になる。画面を覗き込むと、女性のキャラクターが目に入った。 「何だ、それをやっていたのか」  そう呟くと睨み付けられた。 「それ、じゃない。モトコさんだ」  なるほど。架空のキャラに随分入れあげているらしい。だけどここは素直に謝っておこう。 「ごめん、モトコさんね。ちなみに俺のところはアオイさんだ」 「いい名前だな」  褒められるとこちらの気分も良くなる。そこへ橋本がコップを三つ持って戻って来た。ペットボトルのお茶を注いでくれる。 「二人とも、遊んでくれた? 俺の作った恋愛シミュレーションアプリ」 「遊んだよ。綿貫の彼女がモトコさんで俺の方はアオイさんだ」 「何か生々しいな」  橋本の率直な感想にドキリとする。ご指摘の通り、アオイというのは俺が片想いをしていた相手の名前だ。大学時代の後輩さん。卒業以来連絡も取っていない。もう十年近く経つのに我ながら気持ちが悪いと思う。だけど、どうせ恋愛アプリで遊ぶなら好きな人の名前を付けた方が感情移入もしやすいというものだ。 「どうせ好きだった人の名前だろ」 おのれ、橋本にはバレていたか。お互いの理解が深すぎるのも考えものだ。 「うるさいな。その通りだよ」 「ちなみに現実のその人とは結構喋っていたの?」 「いや、あんまり。と言うかほぼ全然」 「よく好きになったね。お前、気持ち悪いな」 「本当にうるせぇよ」  俺の抗議を橋本は聞き流した。結構悔しい。 「で、どう? 二週間プレイしてみて。感想とか改善点とか、教えて。今日はそのために田中と綿貫にうちへ来てもらったんだから」  お茶を一口飲み落ち着きを取り戻す。そうねぇ、と俺もスマホを取り出した。アプリを起動して画面を見せる。 「ステータスを確認出来るボタンが意図せずして触っちゃうところにあって、何度も間違えて開いちゃった。場所を変えた方が良い。あと、たまに動作が悪くてカクカクしちゃうんだけど、これはテスト版なのが原因か? 本稼働したら解消されるのかね」 「その予定だよ」 「じゃあそこはいいや。あとは台詞の文字が表示されるけど、細かい誤字脱字がいっぱいあった。スクショを撮ってあるから後で共有するよ」  そう伝えると、流石だな、と橋本は手を合わせた。 「画面が残っているなら確認しやすい。助かるよ、ありがとう田中」  うん、と素知らぬ顔で頷きながら内心では結構嬉しくなっていた。俺は褒められると舞い上がる性質なのだ。 「それで、彼女の性格はどんな風になった? AIを搭載しているから、プレイヤーとのやり取りを通して千差万別、唯一無二の人物になるはずだ」 「それが売りなんだっけ。今の世の中、結構ありがちな機能だと思うけど」 「いいんだよ、刺さる人には刺さるから。信者は多くなくていい。一部の客層からしっかりお金を回収出来れば、文字通り儲けものなの」 「ゲスイ話だなぁ。キャッチコピーは、貴女だけの彼女がいつでもすぐ傍に、だっけか? 世も末だな」 「いいの、商売なんだから。で、二週間でも結構変化が出ると思うけどどうなった?」  その問いに、俺は一瞬躊躇った。うん、と力無く頷く。 「どうなんだよ田中」 「あまり熱心には遊んでいないから、お前の求めている状態ではないかも知れない」 「別にいいよ。プレイ時間とステータスの変化を見て、ゲームバランスを調整するから」  ええい、隠しても仕方ない。スマホを渡す。橋本がアオイさんのステータスを確認した。 「まず、プレイ時間が二十三時間。一日一時間以上遊んでくれたんだ、ありがとう。それで、好感度が、え、五パーセント? 嘘だろ?」  素っ頓狂な声をあげた。俺は返事をしない。 「田中。お前、どんなやり取りをしていたんだ?」  問い掛けられて頬を掻く。普通のやり取り、とだけ呟いた。 「いや、絶対普通じゃない。あのな、裏側をぶっちゃけるのもなんだけど、説明するとだな。好感度が上がるためのキーワードがいくつか設定してあるんだ。それは日常会話でも普通に交わす単語なの。つまり普通にお喋りしていれば必然的に好感度は上がるはずなわけ。十分間のやり取りで一パーセントアップを想定しているから、一時間会話をしたら六パーは上がる見込みだ。それに、一日一回、ログインボーナスで彼女に渡せるアイテムをプレゼントしているだろ。そいつを渡せば、無条件で五パーはプラスされる。単純に計算して、田中のプレイ時間なら二百パーを超えるな」 「上限は百パーだろ。愛が倍も溢れているじゃねぇか」  五パーにしかならなかった俺は苦し紛れのツッコミを入れる。しかし橋本は冷静だった。 「あくまで単純計算だってば。やり取り次第では好感度が下がるし、上限の百パーセントに近付くにつれて上がりにくくなるよう設計しているのよ。でも五パーセントって。五て。二十時間以上プレイしたら八十くらいはいくはずだよ。逆に今、アオイさんがどんな受け答えをするのか見せてくれ」  スマホを返された。渋々お喋り画面を開く。こんにちは、と打ち込むと、アオイさんは無表情でこんにちは、と応じた。 「お元気ですか」 「おかげさまで」 「今日は天気が良いです」 「それは気持ちが良いですね」 「昨日は曇りでした」 「天気の話が好きですね」 「朝ご飯にトーストを食べました」 「美味しかったですか」 「はい」  覗き込む橋本を見る。 「こんな感じ」  奴は無言で目元を押さえた。ひどい反応だ。こっちは二十三時間もプレイしたんだぞ。 「アオイさん、ずっとこんな感じから変わらなかった。本当に俺とのやり取りを学習しているのか?」  不満を述べると何度も首を振った。 「無理」 「何が」 「この会話でAIが学習するのは、無理。好感度アップのワードも全然拾えていない。こんなやり取り、想定外だ」  鼻を鳴らす。でも薄々勘付いてはいた。そうか、とだけ答える。 「自覚、あるの?」  恐る恐るといった様子で橋本が訊いてきた。うん、とまた頷く。 「俺、女性と上手く喋れない。何を話したらいいのかわからない。共通の話題なんて見付からない」 「結果、お互い知り合いでもないマンションの住民同士がエレベーターで居合わせた時に交わすような会話を繰り広げたのか。二十三時間も」 「うん」 「怖いよ。狂気だよ。五パーじゃ好感度が上がって発生するイベントも見られていないだろう」 「最高、十二パーまではいったから初の二桁おめでとうってメッセージは読んだ。まだまだ認めていないってアオイさんがちょっとだけ頬を染めてくれた」  そのシーンはスクショを撮った。後で橋本に見せてやろう。 「まあ、七パーだった時にログインボーナスのアイテムを使って五パー上乗せしたら届いただけなんだけどな。達成感は無かった」 「ちなみに何日目の出来事?」 「十日目」 「初のイベントが十日目かよ。それまで黙々と当たり障りのない会話を繰り広げていたのか。怖いなぁお前」 「うるさい。俺なりにアオイさんと仲良くなろうと頑張ったんだ」  橋本が背もたれに寄り掛かった。俺は腕を組む。しばしの沈黙が訪れた。 「画面の中にいる女性でも駄目なんだ」  ぽつりと呟かれて無言で頷く。そっか、と遠い目をされた。 「何か、ごめんな。こんなアプリをやらせて」 「いいよ、俺も好きでプレイしたんだ。アオイさんとは仲良くなれなかったけど、可愛かったよ」  お通夜みたいな空気の中、突如綿貫が立ち上がった。見ろ、とスマホの画面をこちらに向ける。 「やったぞ。やったんだ。ついに好感度が百パーセントに到達した。俺は、俺はモトコさんから純然たる好意を向けられるようになったんだぁぁぁぁぁ」 「落ち着け。見えん」  ぶれる手を押さえ付ける。興奮した親友は、鼻息も荒く見ろ、見ろ、と連呼した。確かに百パーセントと表示されている。 「マジかよ。どんだけ熱中していたんだ」 「片や五パーなのにこっちはマックスかよ。凄いな、ちょっと確認させて」  さり気なく俺を傷付けながら橋本が手を伸ばした。しかし綿貫は勢いよくスマホを引っ込めた。触るな、と橋本を睨み付ける。 「俺のモトコさんに何をする気だ」 「何もしないよ。ステータスやプレイ時間、あとは性格の変化を見たいだけ」 「プレイだなんて言うな、いやらしい。俺とモトコさんはプラトニックなお付き合いをしているんだ」 「そりゃあそうだろ、会話とタッチに反応する機能しかないもん」  橋本が口を尖らせる。その言葉に純粋な疑問が湧く。 「それだけの機能で売れるのか?」 「大丈夫。性格は大体自分好みに進化する。あとは絵が可愛ければ売れる。そしていい絵師さんをつけられた。大丈夫、いける」 「本当に世も末だな」 「でも綿貫を見ろよ」  橋本が指を差す。そこには、スマホを抱き締め、犬歯を剥き出しにしてこちらを威嚇するアホがいた。 「説得力しかないでしょ」  頭が痛くなる光景と会話だ。その時ふと気が付いた。なあ、と橋本に問い掛ける。 「これ、テスト版なんだよな。じゃあ遠からず使えなくなるんだろ」 「そうだよ」  瞬間、橋本は息を呑んだ。今度は俺が綿貫を指差す。 「あれ、どうするんだ」  橋本が両目を手で押さえた。綿貫がここまで嵌るとは想定外だったに違いない。だけど好感度五パーの恥ずかしさを有耶無耶にしたくて追い打ちをかける。 「飢えたライオンから肉を取り上げるようなもんだぞ」  その言葉に首を振った。悩むがいい。しかし、しょうがない、と開き直ったように大きく息をついた。気持ちの切り替えがお上手ですこと。あのさ、と橋本は綿貫へ優しく声を掛けた。 「綿貫、モトコさんの好感度が百パーセントに到達して良かったな。おめでとう」  まずは褒めるところからアプローチを開始した。なかなか慎重だ。綿貫は橋本に鋭い視線を飛ばす。あぁ、と端的な返事を述べた。 「そうなると、ずっと一緒にいたいよな」 「当たり前だろ」 「ところで、それはテスト版なんだ。俺が言いたいこと、わかる?」  いきなり本題に入りやがった。さっきの慎重な一歩目は何だったんだ。綿貫は目を逸らし、スマホの画面をちらりと見やった。そこには恐らく綿貫を大好きでいてくれるモトコさんが表示されているはずだ。どうでもいいけど、画面を開いたまま持ち歩いたら誤操作をしてしまいそうだ。好感度が下がったらどうするのやら。 「モトコさんを、どうする気だ」  その問いに、橋本は唇を舐めた。怒るなよ、と両手を前に上げる。 「答えろ。俺の、俺の大事なモトコさんを、お前はどうする気だ」  正直、綿貫の気持ちはわかる。全く好感度が上がらなかったとは言え、二週間お喋りに付き合ってくれたアオイさんと別れるのはちょっと寂しい。 「そうだぞ橋本。答えろよ。俺の大事なアオイさんにも何をする気だ?」 「お前は好感度五パーだろ」 「五パーだろうが一緒に過ごした時間は確かに存在するんだよ。AIだろうが二次元の存在だろうが、俺とアオイさんのお喋りは誰にも無かったことになんて出来ない」  橋本の頬を汗が伝う。まったくだ、と綿貫は俺に同意した。何だか橋本に腹が立って来たぞ。 「橋本。お前は、そういう関係性が生まれることまで考えてこのアプリを作ったのか。商売だって言っていたけど、プレイヤーと彼女の関係、感情、感動まで見越しているのか。それともAIで進化を遂げた彼女だろうが現実に体が無いからどうでもいいって言うのか。ましてやテスト版なんて初めから終わりが定められている物だ。俺とアオイさん、綿貫とモトコさんの間に発生する関係性を、お前はどう処理するつもりでいた。俺達の間には確かに絆が生まれているんだよ。テストだろうが本番だろうがお前は容赦なく消し去るのか。冗談じゃない。俺の大事なアオイさんは、テストでもデータでもない。ここに存在する人なんだよ」  熱く語る脇で、綿貫が小さく本番、と呟いた。そこに食い付いてどうする。橋本は目を丸くした。 「お前、五パーなのによくそんな熱く語れるな」 「五パーだろうがアオイさんとは二十三時間一緒に過ごしたんだよ。お前、まだわかんねぇのか」  スマホをそっと机に置く。綿貫もスマホの画面を上に向けて、ソファにそっと置いた。二人揃って一歩ずつ橋本ににじり寄る。落ち着け、と橋本は何度も繰り返した。 「答えろ。アオイさんをどうするつもりだ」 「モトコさんと俺を引き裂けると思うな。好感度百パーだぞ」  一瞬綿貫に目を向ける。 「それはお前が自慢したいだけだろ。あと、五パーの俺が傷付くからあんまり言わないで」 「ごめん」  そうして再び橋本ににじり寄る。お前らおかしいよ、と悲鳴に近い声を上げた。構わず足を進める。 「アオイさんを消すのか」 「モトコさんを消すのか」 「仕方ないだろ、それはテスト版なんだから。本番用にプレイデータを移すには業者に追加料金を払わなきゃいけないの。お前ら二人のために会社が出してくれるわけないだろ」  綿貫と顔を見合わせる。だったらさ、とどちらともなく呟いた。 「彼女を消される前に出来ることがあるな」 「消そうとしているのは橋本だ。だったらこいつを先に消せばいい」  そうして飛びかかり、手にかけようとした。やめろ、と苦し気な声が響く。 「俺達親友だろ。彼女達のために親友を手にかけるのか」  その言葉に、俺と綿貫の手が止まった。親友、と揃って呟く。 「親友なら傷付けちゃいけない」 「親友なら消しちゃいけない」  もみくちゃにした橋本を引き起こす。 「ごめん」 「ごめん」  親友は、俺達の背中を優しく抱いた。 「いいよ。酒でも飲んで忘れよう」  そうして俺達は仲良く晩酌を始めるのであった。  スマホの画面から顔を上げる。自慢気に腕を組む橋本に、何これ、と問い掛けた。 「今、送って来たこの小説。これ、何。俺達三人がバタバタしているけど」  俺の問いに、ふふん、と胸を逸らした。 「俺がAIのハザマさんに書かせた俺達の小説だよ。俺とお前らの性格を細かく設定して、ハザマさんに取り込んで何本か書かせたの。中でも出来が良かった物を読んで貰おうと思ってさ」  ふうん、と気の無い返事をする。俺達三人の小説ねぇ。 「いや、どんな設定だよ。何で俺が二十三時間もかけて好感度を五パーしか上げられないんだ。しかも、お互い知り合いでもないマンションの住民同士がエレベーターで居合わせた時に交わすような会話、ってひどくない? AIに俺はどう思われているんだ」  抗議を述べると、そうだそうだ、と綿貫も乗っかって来た。 「俺の扱いもひどいぞ。何で二次元の女の人にここまでド嵌りしているんだよ。飢えたライオンから肉を取り上げるようなもんって、俺が女性に飢えているみたいじゃん」 「それはちょっと違わない?」  綿貫の微妙にズレた感想に軽くツッコむ。大体さ、と綿貫は自分のスマホを指差した。 「最後、ひどいよ。俺、二次元の彼女のために橋本を殺そうとしたりしない」 「それは思った。殺すどころか傷付けたりするわけないもん。AIもまだまだだな」 「俺達への理解度が足りないよね」 「しかも最後の方、オチが弱いな。何か俺達がロボットみたいになっちゃってるし。ひょっとして、オチを付けるって概念がよくわからなくて迷ったのか?」 「AIが迷うか? いや、でもオチって概念が理解出来なかったら迷いも生まれるか。そうだとしても、この最後は認められないなぁ」  俺と綿貫が次々述べる抗議と感想を聞いた橋本は、何だよ、と唇を尖らせた。 「かなり出来は良い方なんだってば。それに、俺に向かって文句を言わないでよ。書いたのは俺じゃない。ハザマさんなんだから」  その主張に対して手を振る。 「俺達の性格を設定したのはお前だろ。お前が悪い」 「現実世界に存在しないAIを責められない。だから代わりにお前が責任を取って責められろ」 「だから俺は悪くないって。俺が書いたわけじゃないもん」  三人揃って荒い息をつく。待て、と俺は手を広げた。 「落ち着こう。よく考えたら別に怒るような話じゃない。綿貫、こう考えよう。思うところはあるけれど、入力された情報に従ってここまで立派な小説を書けるAIは凄いじゃないか、と」  綿貫は溜息をついた。まあな、と頭を掻く。 「そもそも俺は小説なんて書けないし、その点においてはAIに抜かされているんだな」 「人が抜かれた分野なんていっぱいあるよ。だけどまだまだAIにも足りないところがある。そもそも俺達みたいな一般人の性格すら、完璧には再現出来ていないんだから」  そう言うと、結構完成度は高いと思う、と橋本は首を捻った。それについては腹立たしいので認めない。無視する。 「な、綿貫。AIは凄いけど完璧じゃない。怒るんじゃなくて可愛いと思って受け止めよう」 「そうだな。可愛いな、AI」  二人揃って笑顔を浮かべる。一方で、あのさ、と橋本は鼻を鳴らした。 「さっきからAI、AIって言うけど、ハザマさんって名前があるから」 「それ、お前が昔好きだった人?」 「そうだけど」 「世も末だな」  言ってから、しまった、と口を押さえた。思ったよりもAI、もといハザマさんは俺への理解度が高かった。そしてそのことに気付いた瞬間、背筋に寒いものが走った。開いたままのスマホを見る。ひどいオチの部分が目に入った。
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