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0‐1銀河でひとり
私、夏野琴美には幼馴染みがいた。男の子の。いつから肩を並べて遊ぶようになったかは覚えていないのだけれど、生まれてからずっと一緒だったのではと思えるくらい、いつの間にか隣にいた子だった。
彼の名前は文月信彦といって、私はなんの捻りもなく“信彦くん”と呼んでいた。彼の方もなんの捻りもなく、私を“琴美ちゃん”と呼んでいた。きっと親を真似て、お互いが無意識にそう呼ぶようになったのだろう。
私たちが住んでいたところはなんというか辺鄙な町で、コンビニエンスストアでさえ二十分以上歩かないと行けない田舎なのだけれど、田んぼや畑が広がっているわけではなく、コンクリートの道に沿って瓦屋根の一軒家が軒並み連なっているような場所だった。
そのくせ人の気配を感じさせず、バスの本数も少ない。スーパーも小さい上に遠かったから、車がなければ大人は大変だっただろう。
そんなところなので、近隣には公園などの遊び場は全くなかった。
けれどこの環境しか知らなかった私たちにとっては、何も問題がなかったのである。
二人とも根明ではなかったし、意地悪を言うことも好きではなかった。
だからただ仲良くお喋りしながら、地面にひたすらお絵描きをしたりして遊んで過ごしていた。
輪っかを何個か描けばけんけんぱが出来たし、線を多用すればマルバツゲームやあみだくじだって出来た。水鉄砲を持ってくれば的当ても出来るし、漢字で名前が書けるようになったことも自慢が出来た。といっても、先に自慢をしたのは幼馴染みの方だったけれど。
とにかく、小さくまとまっていることには気付かずに、私たちなりに楽しんでいたのである。
でも幼稚園に上がって、世界が少しだけ広がった。
二人きりではなくなったからだ。
なんて当たり前のことなのだろう。でも私にしてみれば大きな変化だった。
まず幼馴染み以外で同じ年の子が、こんなにも生息していたという事実に驚きを覚えた。
もちろんたくさんの子どもくらい、両親と百貨店や旅行に出かけた先などで見たりはしていた。
けれど私は、単に同じ天の川銀河に住む異星人か何かという認識で見ていたので、まさか同じ領域の中で過ごすことになるとは更々思っていなかったのである。
しかしそう感じていたのは私だけで、きっと幼馴染みは違っていたのだと思う。
入園式を終え、通常の保育が始まった初日のことだ。
私は幼馴染みのいない通園バスで異星人たちと登園した後、右も左もわからないまま、うろ覚えのクラス名を頼りに教室へ向かった。
人知れず緊張しながら、お祭りの出し物のように飾られた個室の脇を千鳥足で通過していき、やっとの思いで指定の分布域へと辿り着いた。
そしてようやく私の視界に飛び込んできたのは、待ちに待った幼馴染みの姿だった。
車で登園して来ていた幼馴染みは既に遊びに夢中で、漢字の井のような形の大きなブロックを駆使し、周りの異星人と一緒に背の高い建築物を構成していた。私はその建築物の素晴らしさと、目新しい大きなブロック、それから何より幼馴染みの側にいたくて駆け寄ろうと踵を上げた。
けれど、踏み出せなかった。男の子しかいなかったからだ。
幼馴染みに対して性別なんて気にしたことがなかった私は、綺麗に男女に別れて遊ぶ様子にはっとした。
女の子は、ままごと。男の子は、ブロック。
みんな当たり前のように、むしろとても楽しそうに遊んでいた。
ままごとはサンタクロースにプレゼントしてもらったものを、留守番中に遊んだことがあるくらいで大勢で遊んだ経験はないけれど、可愛らしい小さな野菜だったりカラフルな食器やカトラリーだったりと、確かに好奇心を刺激されるものではあった。
でも私は、幼馴染みが背を向けるそれで遊びたくないのである。
男の子同士で心を通わせ、瞳を輝かせる幼馴染みを目の当たりにし、私は寂しさでいっぱいになった。
まるで真っ2つに切られた林檎のように自立することも出来ず、私は自分だけが異星人だったことに気が付いたんだ。
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