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「それで?その後は?」
「穴が爆発しちまったんだよ。まるでファイアーソードが本物になっちまったみたいにさ。それにびっくりして、血相変えて逃げたんだよ」
ひろゆきは思い出し笑いしながら、「あれは笑ったなぁ」と切なくいった。不慮の事故だったとしても、今となっては微笑ましい。
「ああ、そうだったな。あれは死ぬほどびっくりしたやつだ」
慌てすぎて何度も何度も転んだんだよな。山火事になってたら大惨事だった。運がいいやら悪いやら……。
苦笑いしてると、ひろゆきは感極まったのか唇を噛んで、なにもない畳の床に目線を落とした。
「その日からかな……心のどこかで洋ちゃんを勝手に強い奴だと思い込んでいたのかもしれない。実はすっごく強い人間なんだって……勝手に思い込んじまったんだよ……」
ひろゆきは灰皿に長くなった灰を落とし込む。
そして、畳は涙粒で鈍い音を立てた。
「だからさ、嘘だって言ってくれ。あの頃みたいにさ、『お前バカだな』って手を叩いて笑ってくれ……」
「ごめん……それはできない」
この期に及んで気の利いた言葉がみつからない。世界でたった一人の友人ですら、悲しませることしか出来ないのだと思い知った。
それもこれも何もかも全てひっくるめて、不運な人生を呪ってやりたい。そう感じた。
目が赤くなったひろゆきを視界の端にとらえながら、行き場のない気持ちで発泡酒を煽る。
死ぬのが怖い。
はち切れそうになる胸の痛みを内側に押し殺して、喉越しで無理矢理中和していく。
感情なのか炭酸の刺激なのかよくわからない涙を誤魔化しながら、精一杯明るく振る舞った。
「あーあ、パイナップルくいてぇーなぁ」
「なんだよそれ……急にパイナップルか。流石に出てこないっつーの」
とりあえず言葉なんてなんでもよかった。ひろゆきが俺の言葉に反応する、ただそれだけで。そして「なんだよそれ」って笑ってくれるだけで人生が報われる、そんな気がしたのだ。
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