「これからもよろしくお願いしますね」と言われたけれど

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     夜逃げという言葉を聞いて、最初に頭に浮かんだのは、3日前の割引セール。  奥さんは「今日は創業の記念日」とか「開店15周年記念」とか言っていたが、実際には店じまいの売り尽くしセールだったのだ。  よくよく考えてみれば、開店15周年を記念するくらいならば、もっとキリのいい10周年にも何か行うはず。しかし5年前に特別なイベントがあった覚えはないのだから、あれが口実に過ぎないのは明白だった。  個人スーパーの経営というものは、私が想像する以上に大変なのだろう。  いつもあれほど明るく元気そうに見えたご主人と奥さんも、裏では相当苦労していたに違いない。  人には誰しも裏表がある。その程度は私も頭ではわかっているつもりだが……。  例えばあの時、彼女は内心で何を考えて、どんな気持ちだったのだろうか。  閉店が決まっていたにもかかわらず「これからもよろしくお願いしますね!」と二度も口にした奥さん。あの時の彼女の笑顔が、今でも私の頭にこびりついて離れないのだ。 (「これからもよろしくお願いしますね」と言われたけれど・完)    
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