「これからもよろしくお願いしますね」と言われたけれど

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    「こんにちは、奥さん」  店に入りながら、軽く挨拶する。私の名前までは認識されていないとしても、常連客の一人として顔は覚えられているはずだった。 「あら! いつもありがとうございます」  聞き慣れた陽気な声が返ってくるけれど、今日のレジには奥さんのみ。ご主人の姿は見当たらなかった。  とはいえ、心配する必要もないのだろう。ほとんどバイトも雇わずに夫婦二人で(いとな)むスーパーだ。品物を奥から出したり、あるいは仕入れに出かけたり、ご主人はレジ以外で働いているに違いない。  だから彼の不在についてわざわざ彼女に聞くことはせず、私は普通に店の中へ。  店内の陳列棚では、天井の白色ライトに照らされて、どの商品も美しくディスプレイされていた。それらを見て回りながら、肉や野菜、足りなくなった調味料など、予定通りの品物を買物かごへ入れていく。その(かん)もご主人の姿を目にすることはなかったが、特に気にしたりはせず……。  それよりも気になったのは、値引きシールの貼られている商品が多いこと。「3割引!」とか「半額!」みたいな手書きポップも、あちこちで目立っていた。  駅の反対側にある大手スーパーは、毎月20日と30日に5%オフのセールをしている。それと重ならないよう、このスーパー「尾塚屋」では5の付く日、つまり5日と15日と25日が恒例の割引日になっていた。  さらに時々、週末に臨時セールを開催する場合もあるけれど、今日は13日の金曜日だ。いずれにせよ、割引の日ではないはずだが……。 「とはいえ、安いなら安いで問題ないよな」  自分を納得させるかのように、買物しながら独り言を口にする。「安かろう悪かろう」という言葉もチラッと頭に浮かんだものの、ほんの一瞬だけだった。  少なくとも素人目には、肉も野菜もいつも通りの品質に見えたからだ。有名メーカーのチルド食品や冷凍食品なども、ほとんどが大幅に値引きされているけれど、特に賞味期限が迫っているわけではなかった。    
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