生レル

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 科学技術の発達により、人類は子宮の機能を体外の機器に肩代わりさせることにした。  それがいま私の抱えている卵だ。  ある時期から急激に加速した人口減少により、成人後は誰しもが働く義務が課されるようになった。もちろん、それは女性も例外ではなかった。減少を続ける人口を増やす必要はあるが、妊娠出産により働き手が減ることも大きな問題となった。そこで、人類は胎児を女性の体の中で育てるのではなく、卵生のように、体外の保育器の中で育てる技術を開発した。  当初は母子の絆や愛着といった観点から、多くの人々が「たまご」の導入を反対をしていた。しかし、試験的に使用した女性(子宮の問題により妊娠が難しい等)からは、好意的な意見ばかりが続いた。徐々に利用者は増えていき、「たまご」のメリットは拡散されていった。  「たまご」で産む場合、女性の身体的負担はほぼ無くなる、妊娠中(たまごで子どもが育っている間)も普段と変わらない生活が可能、不慮の事故に遭ったとしても子どもに影響が及ばない、等利点が多かった。  子どもにとっても「たまご」で育つ利点は多い。母親の摂取したアルコールや薬物に汚染されない、母親の体調に左右されない、生育に適した環境が何の問題もなく提供される。子どもの成長に合わせて、最適な温度と酸素と栄養が「たまご」から与えられ、すくすくと育つことができる。  「たまご」の開発当初は、お腹を痛めて産んだ子だからこそ強い絆で結ばれるのだとか、子どもが母を母と思わなくなる、等の反対意見も多く、利用者は後ろめたい気持ちを抱かずにはいられなかったようだ。「たまご」利用者が三割を超えたころ、「たまご」で生まれた子どもと通常の妊娠出産で生まれた子どもの親への愛着を比較する研究論文が発表された。様々な面で比較を行い、最終的に「たまご」だろうと通常の妊娠出産だろうと、子どもの愛着は変わらず、どちらかというと出産後の育児の影響が大きい、という考察で論文は締めくくられていた。  この研究論文が発表された後、爆発的に「たまご」の利用者は増えた。そうして、子どものため・母親のために、安全安心な「たまご」を選ぶことは当然の選択となった。通常の妊娠出産に戻すよう声高に叫ぶ人もいることはいたが、時代錯誤であるとして冷笑された。  今まで、妊娠出産を一手に引き受けていた産婦人科は、仕事中の両親の「たまご」を預かる機関に様変わりした。  子どもを希望する親は「たまご」を準備する。無事に子どもができたとなると、朝「たまご」を産婦人科に預け仕事へ行き、夕方、仕事を終えてから産婦人科に「たまご」をお迎えに行く。夜と休日は「たまご」と過ごす。このサイクルは、子どもが生まれてから通う保育園とも同じなため、親子ともどもこのルーティンが生活に組み込まれることになる。この仕組みが良かったのか分からないが、「たまご」の運用が始まってからは人口減少の加速が緩やかになり、少しずつ増加に転じるようになった。  「たまご」が開発されて二十年が経つと、生まれてくる子供の八割が「たまご」利用者となった。「たまご」で生まれた子どもが親となり、また「たまご」を利用する。今となっては、通常妊娠出産を選ぶ人は珍しくなった。  そう、子どもは全て「たまご」によって、完璧に管理されているのだ。
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