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転生前に体験した災いの最中に聞いた話だ。
人間には「悲嘆のプロセス」があり、喪失に対する悲しみや絶望を経て、やがて回復へ向かっていくという。
しかし、遺体を発見できない場合のように「死を確定できない状況」に陥ると、喪失を正しく受け入れられず、悲嘆のプロセスは延々と続いていく。それは、永遠に癒えない傷をつけられるようなもの。「あの人は生きているかもしれない」という可能性が呪いのように残り、喪失を乗り越えられないのだ。
僕は少なくとも、この世界で唯一「曖昧な喪失」の苦しみを認識している。同業の冒険者から疎まれようとも、遺品を届ける価値と意味を知っている。
冒険者がひしめくこの世界には、きっと「遺品探索」の依頼すらできずに諦める冒険者や、その家族が数多くいるだろう。
自動で教会や王様のもとへ戻れないなら、せめて一人でも多く、大切な人のもとへ帰らせてあげよう。チートもスローライフもない、こんな異世界の片隅で、僕はようやく目的を見つけられた気がした。
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