冒険者の遺体は帰れない

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 同じ街で冒険者をしていれば、自然と名前と顔くらいは一致してくる。学校のクラスメイトや、職場の同僚のようなものだと思ってもらえばいい。クリスもそんな顔見知りの一人で、ある理由から印象に残っている女性だった。  彼女は、転生前の世界で、隣の家に住んでいたお姉さんに似ていた。  隣の家のお姉さんといっても、さほど交流があったわけではない。やはり、名前と顔くらいは一致している程度の関係性だった。  交流とも言えないような時間を過ごしたのは、数日間だけ。彼女が瓦礫と化した家から、必死に妹の思い出の品を掘り起こしているのを手伝ったときだ。  街が壊滅するような災いだったけれど、幸いにも僕は五体満足で、家族も全員無事だった。家や家財を失った喪失感はありつつも、避難所の悲痛な空気に居たたまれなく程度には心に余裕があった。  避難所でただ座っているのにも耐えられず、なにか時間を潰せるものは残ってないかと自宅跡地に行ったときに、彼女の姿を見かけた。「お隣の妹さんの消息がわかっておらず、生存は絶望的だ」と母がどこかから聞きつけていたので、すぐに事情を察した。
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