冒険者の遺体は帰れない

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 手伝いを申し出たのは、自分の家族が全員無事だったからことから来る、ばつの悪さが理由だ。なんとか遺品を集めようとする人の横で、娯楽のためにゲームやマンガを掘り起こす無神経さは持ち合わせていなかった。  当時は学生で、さほど体も大きくなかった僕は、ひたすら持てる範囲の瓦礫をどけて、彼女が集中できる環境を整えた。重機もないし、二次災害だって怖い。できることはあまり多くはなかった。  それでも彼女は、いくつかの衣類や小物などを掘り起こすことに成功した。彼女がそれらをぎゅっと抱きしめたときの形容し難い表情は、今でも忘れられない。虚無感と、安堵感。  クリスは異世界の住人だから髪や瞳の色こそ異なるけれど、そのお隣のお姉さんと、どことなく雰囲気が似ていた。だからギルドに張り出された「遺品探索」のクエストで、依頼者の名前にクリスの名前を見つけたとき、皮肉な運命を感じてしまったのだ。
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