霊媒少女との出会い

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霊媒少女との出会い

 前島千佳は陸上部に所属していた。健脚の千佳はリレーではアンカーを任されることが多かった。  部内でも、ムードを盛り上げる役で、三年生の先輩からも慕われていた。  二年生の千佳は中距離走を得意としていた。  母親も学生時代、陸上に打ち込んでいた。いい意味での遺伝子を受け継いだ形になった。そんな、順風満帆に思えた千佳の日常が一変してしまう出来事が起きた。  三年生にとっては高校生活最後の予選会。決勝まで進んだ千佳たちチームは、もちろん、千佳がアンカーを走ることになった。ここまで、予選会は常に一位でタイムも前年を上回っていた。このままいけば、有終の美を飾ることもできた。  特にバトンの受け渡しは絶妙で、他校のチームがバトンを繋げなかったり、落としたりする中、千佳たちのチームはノーミスだった。  しかし、この日の千佳はいつも以上に緊張していた。先ほど、準決勝で危うくバトンを落としそうになったのだ。事なきを得たが、もし、助走が後2秒か3秒早かったら、確実にバトンを受け損ねていた。  千佳は入念にストレッチを行い、何度も頭の中でイメージトレーニングを繰り返した。  そして、いざ決勝戦のレースで、懸念していたことが起きた。バトンを落としてしまった。バトンはスローモーションのように、千佳の足元で跳ね上がり、無情にもトラックの外側へ飛び出していった。千佳は意志をもって逃げて行くようなバトンの軌跡だけを見つめることしかできなかった。
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