霊媒少女との出会い

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 やっと我に返った母親は千佳を梁から下ろした。  その時、千佳は心肺停止の状態だった。母親がスマホで救急車を呼んでいた。千佳は母親の傍らにいた。  母親は知らない間に鎖骨が目立つようになっていた。肌も青白く、一回り小さくなったように見えた。  今、千佳は空中を彷徨っていた。無縁仏になった。つまり、成仏できていない。  千佳はチューブに繋がれたまま、死人のように眠っている自分の姿を不思議な気持ちで見下ろした。  外に出ると、一人の老婆が横断歩道の前に佇んでいた。  信号が青になっても、老婆は渡る気配がなかった。 「お婆さん、青ですよ」  千佳が老婆の耳元で声をかける。耳が遠いのか、老婆はまったく反応しない。 「あのう...」 「わたしが見えるのかい?」  老婆が訊いた。 「え?見えるって?」 「そうか。お嬢ちゃんも無縁仏だね?」  老婆は今にも小躍りしそうなほど、嬉しがった。 「わたしはここで車に轢かれて亡くなったらしい。ああ、ちゃんと青信号で渡ったのに。車はちゃんと覚えておる。白のBMWだ」  千佳は思い出した。一か月前、ここで轢き逃げ事件があった。一人の老婆が犠牲になった。お婆さんには悪いが、白のBMWは見つからないだろう。犯人が処分していると思うし、仮に白のBMWを見つけたとしても、同じ車に乗っている人間はごまんといるだろう。 「お婆さんは犯人を捜しているの?」 「そうさ。わたしは青信号で渡った。ちゃんとルールは守った。なのに、犯人はルールを無視した。だから、犯人には罰を与えなきゃいかん」  老婆は怒り心頭に発した。うん。お婆さんの言う通りだ。この世はいつでも、割を食うのは加害者ではなく、被害者なのだ。
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