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心の底から応援したい。だけど、お婆さんに協力している場合ではない。千佳は一刻も早く、自分の身体に戻りたかった。でないと、いつ死亡手続きが取られるかわからない。
首に縄をかけた瞬間、千佳は生きたいという欲求が芽生えたことを自覚した。
お婆さんは目をギョロギョロさせながら、往来する車を確認している。おそらく、雨の日も風の日も、お婆さんは今みたいに車の往来を見守っているのだろう。
千佳はお婆さんに別れを告げた。
お婆さんは千佳を見るなり、あなた、首を括って死んだんだねと言った。え?どうしてわかったの?と訊くと、お婆さんは自分の首元を指さして、痣ができてるよと言った。
浮遊しているうちに夕方になった。辺りは薄闇に包まれた。
千佳はどこをどう、浮遊していたのかわからなかった。ただ、同胞を求めて浮遊していた。
気が付くと、ある公園の一角に来ていた。
砂場付近で、自撮り棒にスマホをつけ、何やら実況中継をしている白装束の男の姿があった。
あ、千佳は声をあげそうになった。彼は有名な心霊系YoutuberのSOTOBAだ。
千佳も興味本位で彼のユーチューブを拝見したことがある。彼は生まれつき、霊が見えることを公言し、ユーチューブ上でフォロワーを伸ばしていた。
実際は幽霊なんて見えないことは、少し考えればわかる。ただ、オーバーなリアクションや語り口が視聴者を惹きつける。千佳もその一人だった。
今こうして、SOTOBAの前に現れても、彼はまったく気づく気配はない。これで、彼は幽霊なんて見えないことを証明してしまった。
千佳は彼の前に立ってみたり、いないいないバーをしてみたが、無反応だった。
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