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プロローグ
「どうして、おまえがいながら、こんなことに...?」
前嶋義孝は汗だくの顔をハンカチで拭おうとはせず、一喝した。
前島佳奈は両肩をぶるっと震わせ、我慢が堰を切ったのか、へたりこんで泣き喚いた。
慌てて、看護師二人が脱力した佳奈を両脇に抱えて、別室へ連れて行った。
前嶋義孝は悔し紛れに、目の前の柱を拳で殴った。歯を食いしばって、涙を堪えているようだった。
「前嶋義孝さんですね。娘さんの容態ですが...」
義孝は医師に向き合い、目を最大限に開いて言った。
「忖度しないで正直にお話ください。娘は...?」
医師は拳を丸め、カッと目を見開くと、乾いた唇を舐めた。
「娘さんは脳死です。脳に数分間、酸素が行き渡らなくなってしまったため、脳の大部分が損傷してしまい...」
その後、医師の言葉も聞こえなくなり、姿もぼやけ始めた。
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