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シャンディ・ガフ、夕日のハンバーグピカタ
空が青く見えるのも夕日が赤く見えるのも目と脳が見せる錯覚だ。
つまり人間は自分の目と脳に騙され続けて一生を過ごす。
瑠璃は宇宙一尊敬する母から、そう学んだ。
「よっ……と」
瑠璃はプルトップを爪先でこじ開けて、ぬるいビールを喉の奥に流し込む。
その途端、鼻先に冷たい雫が跳ねて、彼女は眉を寄せた。
「ちょっと……今日晴れじゃなかったっけ?」
気がつくと、大きな雨粒が一滴、二滴。
あっという間に雨脚が強まって、眼鏡に水滴が広がる。
濡れた眼鏡の向こう側に、猫の親子が見えた。
するりと細い黒猫と、その足元に絡みつく毛玉のような子猫が3匹。
「早く屋根のあるところにいかないと、濡れちゃうよ」
猫は二、三度目を瞬かせると、子猫を連れて壁の隙間に吸い込まれていく。猫にまで見限られた瑠璃は、びしょ濡れのまま苦笑した。
(……雨の中でビールを飲む人間なんて、酔狂すぎて猫も近づかない、か)
瑠璃はふと、そんな言葉を思い出した。
それは瑠璃の上司、菊川の言葉だ。
(あれは確か半年前……あの日は送別会で……)
たった半年前なのに、思い返せば遙か昔のようだ。
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