シャンディ・ガフ、夕日のハンバーグピカタ

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 ちりりと痛むこめかみを押さえて、瑠璃は目を閉じた。そうすると、瞼の裏に半年前の風景が浮かんでくる。  残念ながら瑠璃は記憶がいい。楽しいことも嫌なことも、この小さな脳はすべて記憶していて瑠璃を時折揺さぶるのだ。 (あれは10人を見送る……送別会……で)  思い出したのは、半年前の出来事だ。    それは瑠璃の入社日であり、同時に知らない人たちの送別会の日。  『はじめまして』と『さようなら』が重なる日だ。  感傷と追憶に浸る見知らぬ人々に囲まれて、河川敷でバーベキューを行った。  ……なかなかハードルの高いイベントだ。とくに瑠璃のように、人とふれあうのが苦手な人間にとっては。 (それで……)  瑠璃はあの時と同じように、プルトップの尖ったところに指を置く。 (指を切ったんだ)  あの日も瑠璃は今と同じように、ビールのプルトップに指を置いた。  気まずさのせいだけではない。人生で初めてビールというものを口にしたせいだ。
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