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「進捗状況はどうだ?」
「同じ日を何度も繰り返していますね。残り15%で止まった状態が続いて一週間になります」
「そうか。不具合なのか?それとも感づかれたのか?」
「わかりません。ただ、モニターの映像は我々が埋め込んだ記憶領域から逸脱してはいませんから・・・・今しばらく様子見と言ったところでしょう」
俺の声に反応したのか水泡がボコボコとバグタンクの底から湧き上がった。
「まぁ・・・・ここまで来て焦ることはないでしょう。彼女の理論を彼女自身で検証しているのですから」
俺はバグタンクの中で両手を広げ、空を飛んでいる様に浮かぶ雫を見上げた。
「そうか、そうだな。後15%で完全な脳の複製が完成するのだからな」
叔父である所長が俺の肩をポンポンと叩いた。
「しかし、お前にしては上出来だったな。知識も思考も感情も見栄えも申し分のない検体を手にいれたのだからな。よくやったと出資者も褒めていたぞ」
地位や権力、名誉や財産を持ち合わせた者たちが渇望する『不老不死』。脳の完全な複製がそれを実現可能にする未来が手に届く所まできている。
「あの方もお前の功績を賞賛していた。出資の増額も決まった。お前はここの打ち出の小槌だよ」
そう告げると叔父は高らかに笑いながら研究室を出て行った。
独り残された俺はバグタンクに浮かぶ雫の前に立って
「雫、全てお前のお陰だよ。ありがとな」
左手を差し出し微笑みを向ける。
「雫、これからもよろしくな」
俺の言葉に水泡がボコボコとバグタンクの底から湧き上がった。
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