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「学生のころ、連帯保証人になってた友人が借金を払わずに逃げて……。取り立て屋が会社まで来たんだ」
「借金! いくらですか!」
「早まるな。そっちはなんとか清算したから。でも、そのせいで社内の人の見る目が変わっちゃってさ」
恩人は眉を下げた。
「入社当初は楽しい雰囲気だったのになあ。借金のことが知られたとたん、急に皆が引いていくのがわかった。何か失敗したときも、前なら『いいよ、いいよ』って言ってくれてたのが、凄く迷惑そうな顔をされたりしてさ。おれはもう、自分が産まれたときからクズだったみたいな気持ちになったよ。結局その会社は辞めた。新しく就職しようにも、またああいう態度を取られたらと思うと……。今は、他人とかかわるのが辛いんだ。でも、人間のいない会社なんてないし。どうしようもないよな、こんなやつ」
「いや、あります!」
私は飛び上がった。とうとう恩人の求めていることがわかったのだ。しかも、なんという僥倖。灯台下暗しとはこのことだ。
「そういうことなら、ぜひ我が社にお入りください!」
「はっ?」
目を丸くする恩人に、私は尻尾を振り立ててプレゼンを開始した。
「正確には、完全に人間ゼロの会社ではありませんが――人間の頑張りがないと倒産しちゃいますからね――我が社の人間率はおよそ四割、完全ゼロの部署だって二つあるんですよ! 人間不信の嶋タカシさんにぴったり!」
「き、キツネの会社って……うそだろ。ヤバくない?」
「心外だなあ。うちは小さいながらもクリーンでサステナブルな地元志向の企業ですよ!」
私は胸を張った。
「そうと決まれば、さっそく雇用条件について相談しましょう。ここじゃちょっとなんですから、事務所に行きますか。あ、迎えを呼びますね」
「事務所? おい待て。あんたほんとにカタギなんだよね? ツボとか売りつけるつもりじゃないよね?」
恩人はまだ何かブツブツ言っているが、私の脳内ではすでに新人育成計画が立ち上がりはじめている。我が社の社員となったからには、ビシバシ鍛えていこう。これは将来楽しみだぞ。
「これからもよろしくお願いしますよ、嶋タカシさん!」
私は声を弾ませた。恩返しはこれからだ。
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