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コーヒー片手に張り込むこと一時間。ビカビカ光るパチンコ屋が、とうとう恩人を吐き出した。
「ようやくか!」
私も店を出る。追いかける背中は、小ギツネ時代の記憶とほぼ変わらない気がした。身なりがもっさりして、肩が丸まってはいるが……。
恩人は所在なさげな足取りで駅前通りを出た。おそらく近所の公園で時間を潰すつもりだろう。昼食は、財布に余裕があれば牛丼屋、なければ公園内の自販機で缶コーヒーを飲む。その後は近くのショッピングモールに移動して本屋に入ったり電気屋をうろついたり、ベンチでぼんやりスマホを眺めたりするのだろう。だいたい四時過ぎにはモールを出て、近くの安売りスーパーで適当な惣菜を買って家に戻る。
一か月ほど恩人の周りをうろつきまわり、私はすっかりそのルーティンを覚え込んだ。そして途方に暮れた。
恩返しができない……というか、その機会がないのだ。仕事もしない。恋人もいない。パチンコだって、他にすることがないからしているだけのようだ。ただの暇潰し。『天は自ら助くる者を助く』というが、何もしない人間を助けるのがこれほど困難だとは……。
もちろん私だって、ただうろついてばかりいたわけではない。
一度、とにかく食事はするだろうからと、食糧を差し入れたことがあるのだ。ところがドアの前に積んだ魚や野菜は夜のうちにカラスに漁られて周囲に散乱、同じアパートの住人から苦情が出て恩人が怒られた。
どうやら昔話のようにはいかないらしい、それならば、と宅配便を使ってみたところ、今度は送り主に見覚えがないからと受け取り拒否された。現代人の疑り深さよ。
現物が無理なら現ナマで! と、次には送金も計画した。だが、相談した経理のキツネに止められた。私の口座から大金を動かすのはコンプラ的にまずいらしい。そりゃそうか。
恩人がいかつい男たちに囲まれている場面に出くわして、「とうとう私の妖力を解放するときか……!」と奮い立ったこともある。しかしただの職務質問だった。さすがに公務執行妨害はできなかった。
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