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「ちょっと待て」
恩人、もとい嶋タカシが声を上げた。
「盛り上がってるところ悪いけど、それ人違いじゃないか? あんたが子どものときなら、おれはたぶん大学生じゃない」
「いやいや、あなたですよ。A型で乙女座の嶋タカシさん」
「こわっ! だから何で知ってるんだよ」
私たちは、最初に出会った公園に逆戻りしていた。
車の前に飛び出した瞬間、私は妖力を解放し、自ら巨大なエアバッグと化すことで恩人と車の両方を守った。いつも人間に化けているのだ、それくらいは朝飯前である。
ただ、急いでいたので服を脱ぐ暇が無かった。変化の衝撃で千切れ飛んだ衣服は、今でもロータリーの一面に四散していることだろう。着るものの無い私は人の姿に戻れなくなり、こうして人目につかない場所まで移動することになったのである。全身キツネ姿の私を見ても、恩人はもう驚かなかった。
「……じゃあ、あのときは子どものフリしてたのかよ」
「いえいえ、当時の私は四歳。人間でいうならまだ中学生です」
物分りの悪い恩人に、私は噛んで含めるように説明した。
「そもそもキツネの成長を人間と同じだと思わないでください。普通のキツネなら、一年半くらいで成熟しますからね。化けギツネはもう少し緩やかに成長しますが、六歳を超えればだいたい一人前です。私は仲間と会社も作りました」
「まじか。急成長すぎる」
「まあ、老化がまた遅いんですけどね。……それより、あなたの話ですよ!」
私は恩人の顔を覗き込んだ。
「あんなに堂々としていたあなたが、どうしてこんなにネガティブになってしまったんですか? 何かあったとしか思えないんですけど」
話が自分のことに及ぶと、恩人は目をそらし、黙り込んでしまう。だが私は許さなかった。つぶらな瞳でしつように見つめ続けると(キツネ姿で良かった、人型ではこうはいかない)、彼はとうとう音を上げた。
「わかったよ、言うよ……」
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