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「はじめまして、こんにちは。お客様」
大きな振り子時計、色とりどりのランプ、銀食器。華奢な足のキャビネットに、古ぼけたトランク。アンティークショップに足を踏み入れた私は、興味を持って店内を見回した。
不思議な気分だった。はじめて訪れたはずなのに、なんだか懐かしい。
ふと、奥から現れた店の主とかちあい、出迎えられる。
私は彼の真っ黒な瞳を見つめ、微笑み返した。
気のせいじゃない。私は彼を知っている。
「はじめまして、じゃありませんよ。マスター」
訝しげな視線に対し、私は右手を掲げた。
「やっとわかりました。キーケースをくれたのはマスターだったんですね」
「は?」
はじめ、マスターは訳が分からないという顔をしていたが、すぐに持ち直した。さすが私と違って理解が早い。
「どうやら私、耐性がついたようです。覚えているんです。前のこと。
前回が七回目だって言っていたから、これで八回目ですね」
「いや、これで十一回目だ」
すっかりらしさを取り戻したマスターは意地の悪い顔で笑った。
「人のこと利用し過ぎですよ」
「お前がチョロ過ぎるんだよ。四辻」
「失礼ですね。何度私に助けられたと思ってるんですか」
「お前は何もしてないだろう。それに、成功したのは三回だけだ」
「それはマスターの腕の問題じゃありません?」
「チッ……」
「それで、マスター。私の就職先は?」
「わかってるんだろう? ここだ。お前を雇うのはこれで四回目だ」
「これからよろしくお願いしますね。マスター」
「違う。どれだけ面倒を見てやったと思ってる。
これからも、だ」
「そうですね。これからもよろしくお願いしますね。マスター」
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