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「それで、事情とは?」
二杯目の紅茶をいただきながら、私は問いかけた。
「そうですね。四辻さんにもわかるよう、順を追ってお話しましょう。
あなたは二週間前、B町のとあるカフェに立ち寄りましたね」
「え、ええと、そうだったかな」
唐突な話題転換に驚きつつ、私は記憶の海を探った。生活に余裕がないので、カフェに行く習慣はない。ここ最近、友人と会った覚えもないのだが、そんな贅沢なことをしただろうか。
「面接に向かっていたあなたは、約束の時間よりも早く到着してしまったためカフェに立ち寄った。そこであなたは忘れ物をした。そうですよね?」
「あ、確かに。そんなことがありました」
おぼろげな記憶が輪郭を取り戻していく。
あの日、確かに私はコーヒーショップで時間を潰した。窓の外を眺め、もしも面接に受かったら自分もあの信号待ちをしている人たちの一員になれるのかなと夢を膨らませていたっけ。
居心地がよかったせいか、知らぬ間に時間が過ぎていた。面接時間の十分前に慌てて店を飛び出した私は、椅子の上に財布を置き去りにしていた。
「まさか」
交差点で「お客様、忘れ物です」と言って私の肩を叩いてくれたのは、笑顔が素敵な店員さんだった。
「そうです。あなたに忘れ物を届けたのが被害女性でした。彼女はその時、たまたまそこに居合わせた犯人に見初められたのです」
「そんな……」
髪を結い上げていたからだろう。テレビで何度も目にしていたのに気が付かなかった。
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