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「わっちょ……あああ!」
バス停に向かっていた私は、突然塀の上から飛びついてきた猫に驚き、鞄を落とした。
携帯電話、メモ帳、化粧ポーチに長財布。中身のほとんどをぶち撒けてしまい、急いでそれらを拾い集める。
他に落としたものはなかったかと周りを見渡すと、2,3メートル先で黒猫が鳴いた。
「あっ、鍵!」
かわいらしい前足が、たしたしとキーケースを踏んでいる。
お願いだから爪を立てないでほしい。
驚かさないようにそっと距離を詰めると、猫は私の顔をじっと見つめた。とても毛並みが良い。撫でさせてくれないかなと邪なことを考えていると、猫はキーケースを咥えて走り出した。
「待って。それ別においしくないってば。返して!」
交差点や人混みで見失いそうになると、追いかけてこいと言うように猫はゆっくりと振り向いた。やさしいのか、意地悪なのかわからない。
そうして、追いかけて追いかけて辿り着いたのは、街を見下ろす高台だった。面接を受けるはずだったビルが遠くに見える。まだ時間にはなっていないが、今から向かっても間に合いそうにない。
「もう、どこに行ったの。猫ちゃん」
取り合えず、キーケースだけは取り戻さなければ。未練は捨て置いて、私は憎たらしいおしりを探しを続行することにした。
カタン。小さな音に目を向けると、こじんまりとした洋館のドアの一部が、ペットドアが揺れていた。
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