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透哉の生い立ち
二条院透哉は、八歳の時、いきなり継母の笛から、病気だからと
離れの部屋に閉じ込められ、外に出る事を禁じられた。
窓と言う窓は、釘付けされて開かず、出入り口には、鍵が掛けられた。
「出して、出して」と、騒ぐと、屋敷に出入りしている
滋慶と言う僧が来て「狐が憑いている、追い出さねば」と
割れ竹で、身体を殴られる。
騒ぐたびに、息も出来ぬほど打ち据えられるので、次第に、騒がなくなった。
騒ぎさえしなければ、打たれる事は無いと、分かったからだ。
その時、父は居なかった。
時の帝が崩御され、親戚でも有り、朝廷の行事に詳しい父、実美は
朝廷の命により、崩御に伴う、様々な行事の指図をする為に
都へ行っていたからだ。
三度の食事を持って来る、下女以外とは、誰とも会う事も無く
一日中、陽の差さない部屋で暮す、何もする事が無いので
そこに有った、本を読むだけの毎日だった。
「父上、早く帰って来て下さい」毎晩、泣きながら、そう願ったが
父は、一向に帰って来なかった。
一年間の、崩御の儀式が終わると、今度は、新帝の即位の儀式が有り
それにも、一番詳しい実美が当たる事になったからだ。
その準備から、滞りなく即位の儀式を済ませ
その後の、諸々の儀式を終えて、実美が帰ろうとすると
新しい帝は「実美が居ないと、心細い」と、帰る事を許さなかった。
まだまだ、都からは帰れないと、実美は、笛と子供達を呼び、会う事にしたが
笛は、自分が産んだ息子と娘だけを連れて、都へ行った。
「透哉は?」と聞く実美に「気の病を患って、外に出せないので」
と、笛は、透哉が訳の分からない事を言って
暴れまわるので、離れに閉じ込めたと、話した。
「何と、、それで医師には見せたのか?」
「はい、医師にも、滋慶様にも来て頂き、様々な治療をしたのですが
一向に、良くなりませぬ」笛は、しゃぁしゃぁと、嘘を言った。
「透哉は、母を早くに亡くした可哀そうな子だ、それなのに病気になるとは
私は、まだまだ帰れそうに無いが、出来るだけ
滋養の有る物を食べさせて、大事にしてやってくれ」
実美は、十分に都見物を楽しんで帰る笛に、そう頼んだ。
『そう?まだまだ帰れないのね、それなら、そのうちに、透哉は
死んでしまうかもね』笛は、心の中で、そう思った。
それからは、透哉の食事は、滋養のある物を作らせたが、それが全て
透哉の口に入る事は無く、透哉は、次第に痩せて、背ばかり延び
ひょろひょろの体で、身体を動かすのも、億劫になって行った。
半年が経ち、どうしても、透哉の事が心配な実美は、腹心の鉄之進に
「透哉の様子を、詳しく調べてくれ」と、頼んだ。
鉄之進は、その調べを、忍びの配下に命じた。
透哉は、明らかに栄養不足で、青い顔をして、寝てばかりいると、言う
配下の調べを聞いた鉄之進は、驚いて、実美に報告する。
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