いつまでも

6/12
前へ
/58ページ
次へ
その井田と富樫は、切腹となった。 二人の一族は、散り散りになって、縁ある所へと、去って行く。 朝廷や帝に仇なす者は、こうなるのだと言う、見せしめだと、皆は思った。 だが、これは、朝廷の高官で、井田の後ろで糸を引いていた者の仕業で 自分の事を喋らない様にと、二人を、直ぐに切腹させたものだった。 貿易で、大富豪になり、帝のお気に入りで、帝の義兄の息子迄、婿にして ますます、勢力を強めた長春を、心良く思っていなかったのだ。 だから、吉沢領が邪魔な井田と、手を組んだのだった。 「これで、長春も、少しは肝が冷えたであろう」その者は、そう嘯いたが 当の長春の、肝が冷える事など無かった。 ただ、駿貴を心配させたという事だけは、堪えていた。 稲葉聡介は、朝廷に呼ばれ、主の居なくなった井田の領地を そっくり受け継ぐ様にと、命じられる。 駿貴が「稲葉からの知らせが無ければ、何も気付く事なく 父上は、毒殺されていた事でしょう、一番の功労者は、稲葉です」 と、言ったからだった。 「空を飛ぶ、鳩を見ただけで、怪しいと見破るとは、なかなか出来ぬ物よ」 帝は、痛く感動して、呼び出した聡介の美しさに目を瞠り 「領地が大きくなったのだ、それに見合う様に」と 従三位の位まで、授けてくれた。 この辺りでは、一番小さな領地の稲葉は、吉沢に匹敵するほどの 大きな領地となり、おまけに、従三位と言う、身分にもなった。 それまでは「うちの殿は、女の様で頼りない」とか 「こんな殿では、稲葉の行く末が心配だ」 等と、聡介の事を、良く思っていなかった家臣たちは この事に驚き「さすが、我が殿」と、掌を返して、褒めそやす。 「お世話になった、お館様の、命も守れて、本当に良かった。 これもみな、透哉のお陰だよ」聡介は、トネと萩乃に、そう言った。 全ての事が終わった後、駿貴は、菊也の所に行き 「もう、井田も富樫の追手も来る事は無い、安心しろ」と言った。 そして「どうだ、幼子の教育係にならぬか」と、言う。 「教育係で御座いますか?」「そうだ、お前は、私以上に学問を嗜んでいる。 その知識を、埋もれさせるのは、勿体ないだろ?」「はい」 「二条院の屋敷に行け、そこで司と言う男の子の、教育をしてくれ」 「司様ですか?」「そうだ、これは、父上にも、内緒にしているのだが その司は、私が結婚する前に、付き合っていた人との間に生まれた 私の子供だ」「ええっ、そんな重大な事を、私に、、」 「そうだ、私は、お前を信頼している」「、、、有難うございます」 菊也は、胸が一杯になった、本来ならば、打ち首と言う私を信じて こんな重大な事を打ち明けてくれるなんて、、、。 「司様が、立派なお子様になられます様に、私の、全を捧げたいと思います」 「頼むぞ」「はいっ」という事で、菊也は、浅黄の屋敷に来たのだが 「お前たちっ」ヨシと、その夫、金蔵の姿を見て驚く。 「き、菊也様、、」二人も、菊也を見て、腰を抜かすほど驚いた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加