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半年ほど、平和な日々が過ぎた、長春は、千代丸を連れて
「駿殿、後を頼むぞ」と、各地で評判が良い
蝦夷の品を求めて、また、蝦夷へ向かった。
その長春の仕事を、せっせとこなしていた駿貴に
とんでもない知らせが入った。
それは、菊也からで、浅黄と信蔵が、死んだと言う物だった。
夢中で駆け付けた駿貴の前には、物言わぬ浅黄と信蔵の姿が有った。
「何で、何で、こんな事に、、」駿貴は、泣き崩れた。
「浅黄様が、増水した川に落ちられて、それを助けようとした信蔵様迄、、」
菊也も、溢れる涙を拭きながら言う。
数日間降り続いた雨で、道の路肩が弱り、その上に乗った浅黄の足元が
崩れて、川に落ちたと言う。
「まさか、あんな所が崩れるとは、、、」誰も、思いもしなかった場所だった
もう、九カ月だった身重の浅黄には、どうする事も出来なかったのだろう。
助けようと飛び込んだ、信蔵さえ飲み込んだ、濁流だった。
涙の目を上げた駿貴は、ポツンと座って、肩を震わせている司の姿を見る。
「司っ」駿貴は、にじり寄って、司を抱きしめた。
「うっ、うっ、うわ~ん」司は、抱かれた胸で、声をあげて泣いた。
小さな、その背中を擦りながら、駿貴も、また泣く。
それでも、何とか、二人と、お腹の子供と三人分の葬儀を済ませた。
「司は、私のもとへ連れて行くが、お前たちは、これからどうする?」
駿貴が、金蔵夫婦に聞くと「もう、稲葉領になったので、井田に帰っても
大丈夫だと思います、井田には、親戚や身寄りもおりますので
出来れば、帰りたいのですが」と、言う。
「分かった、稲葉の領主に、お前たちの事は、よく頼んでおく」
そう言った駿貴は、二人が当座暮らせるだけの、金子を渡した。
「こんなに沢山、、、有難うございます」二人は、大喜びで帰って行った。
「司、私と一緒に行こう」駿貴がそう言うと
「菊也と一緒なら良い」と、言う。
もう、いくら待っても、父も母も帰らないんだと、幼いながら分かった様だ。
そんな司が、いじらしくて堪らない。
だが、だからと言って、吉沢家に入れる訳には行かない。
「司、都へ行くぞ」「都?」「ああ、そこには、司のお祖父様が居るんだ」
「お爺様?」「うん、優しい婆様も居るぞ」「ふ~ん」
駿貴は、後の事は新田に任せ、菊也と、司を連れ、都へと急ぐ。
「何?駿貴が来ただと?」一体何事かと、実美は驚きの声を上げた。
「何事だ?」と、駿貴が待つ部屋に来た実美は
幼い頃の、透哉そっくりの子供を見て、目を丸くする。
すると、その子は「こいつが、私の爺様か?」と、言い放った。
「そうだが、こいつって言うのは、いけないよ」駿貴が、諭す。
「な、何が、どうなっておるのだ?」訳が分からず、目を白黒させる実美に
「まぁ、可愛い子供!!」藤乃が、やって来て言う。
「この人が、優しい婆様か?」司は、また、そう言った。
「はいはい、私が、婆様ですよ」藤乃は、にこにこして言う。
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