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「な、何だとっ、信蔵と浅黄が、、」実美も、驚きで言葉が続かない。
司は、信蔵の子供として、育てて貰っていたが、実は、私の子供なのだと
駿貴は、事情を話す「道理で、お前の幼い時に、そっくりだと思った」
実美には、別の驚きだったが、藤乃は、もう司を膝に抱いていた。
どこにも、預ける所が無いので、ここで、育てて欲しい、そう言う駿貴に
「何と、嬉しい事、この子と、ずっと一緒に居られるのですね」
藤乃は、大喜びし、実美も、お前と一緒に、暮らせなかった分まで
司を、大事に育てると、約束してくれた。
駿貴は、もう藤乃の膝で、甘えている司に
「司、菊也と一緒に、お祖父様と、お祖母様の所で、暮らしておくれ」
そう言うと「良いよ、菊也と優しいお祖母様がいるから」
と、司は、屈託の無い顔で言う。
「菊也、頼むぞ」「お任せ下さいませ」菊也も、きっと顔を上げて言う。
両親に、司を預ける事が出来て、ほっとした駿貴は
それまで押さえていた、浅黄への思いが溢れ、涙ながらに、吉沢へと帰る。
『浅黄、浅黄、、何で逝ってしまったんだ』ただただ悲しかった。
もう死ぬばかりだった私を、生き返らせてくれた浅黄、、
辛い気持ちを、しっかり抱きしめて、忘れさせてくれた浅黄、、
浅黄、浅黄、、私を温めてくれた、優しい浅黄、、、
その浅黄と一緒に、自分を守ってくれた、頼もしい信蔵まで、、、
亡くした物の、あまりにも大きな存在を、改めて知らされる。
吉沢に帰っても、いつもの仕事をしていても、ふいっと涙が出る。
「駿様、どうなさいました?」新八郎が、志麻が、典子が心配する。
「私を、母代わりに育ててくれた人が、亡くなったんだ」
それを言うだけで、もう、胸が一杯になる。
「お可哀そうに、お心が優しい分、大きく傷ついておられるのね」
皆は、そっと見守るしか無かった。
蝦夷から帰って来た長春も、何とか慰めようとしたが
駿貴の気持ちは、何時までも、暗いままだった。
「よしっ、航海だ、海に出れば、駿殿の気持ちも、きっと晴れる」
長春は、また航海へ出る準備をし、渋る駿貴を、無理やり船に乗せた。
「兄上、元気を出して下さい」もう、船酔いも克服した、千代丸が慰める。
だが、航海の最終国は、あのフウランの国だ。
今、フウランに会えば、浅黄の事を、思い出すばかりで、苦しくなりそうだと
駿貴は、航海に、乗り気では無かった。
夜は、長春との激しい歓喜の海でもがき、身体は満足するが
心には、いつも以上に冷たい風が吹く。
失った浅黄の温もりは、長春では、埋められる事は無かった。
浅黄、浅黄、、自分の部屋で、一人泣く、そんな航海も
いよいよ最終国の、フウランの国へ着いた。
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