戻ってきてからのこと

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 だから、空の自分を満たすために他人の揚げ足を取る以外の選択肢がなかったような気がする。だけど、自分がいないのにどれだけ他人を批判しても、自分の器は満たされることがない。他人の悪口や、アルコールは、どれだけ消費しても自分に返ってくることはなく、自分の空虚さを際だたせるだけだ。でも、自分のいなかった自分には、そんなことも理解出来なかったに違いない。  自分が戻ってきてから一月ほど経った夜、僕はアルコールの自動販売機の前で立ち尽くしていた。  自分が戻ってきてから、自分のことを冷静に見つめるようになった。冷静になるといろいろなことに気づいた。まず、給料が少ない。借金もあった。友達もいない。もちろん、恋人もいない。そして、40歳を過ぎていた。  冷静になって客観的に見た自分は滑稽だった。悲しかった。そして、手遅れだった。ここ何年かアルコール漬けだった頭を少し冷やして真剣に考えてみたけど、これからの未来なんて想像出来なかった。希望なんて一つも見つけられなかった。だから、気づけば、自動販売機の前に立っていた。ビールに日本酒、そして缶チューハイも売っていた。指がチューハイのボタンを押しそうになった時、そういえば、最近本を読んでいないことに気づいた。
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