マッチングアプリのサクラ

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 私は彼のかたわらに落ちたクラッチバッグを手に取ると、その中からスマートフォンを取り出す。  ロック画面は、初期設定。私は眠る彼の手首を持ち上げると、その親指を使ってスマートフォンの側面の指紋認証部分にあてた。するとスマートフォンの画面が変わり、トップ画面が表示される。  画面の上にアプリがたくさん表示されている。そのなかで四角い緑地に吹き出しのマークが描かれているアイコンを見つけると、それをタップした。  そこのトークルーム画面を確認して、私は思わず顔をしかめる。そこには、おびただしい数の女性のアカウントが表示されていたからだ。  私は、ポケットから自分のスマートフォンを取り出して、それを撮影する。  次に女性のトークルームを一つずつ開いていく。  そこにはどれも、『会いたいね』だの『大好きだよ』だの『結婚したい』だの、甘ったるい言葉が並べられていた。  なかには、デートだけでなく、情事の写真や動画などもあって、私はため息をつきながらあますことなくそれを全て写真や動画におさめた。  そうしているうちに一人の女性が目に入る。私は彼女を見て、息をついた。 「やっぱり、残念な結果になっちゃったね」  私は彼女のトークルームを開く。そこでは、主に子供の写真とともに近況報告がされていた。それから何度か通話のマークが並べられている。だが、最近はそれにユウタが出ないことが多いのか 『ごめん、今日も残業で遅くなった』  との返信ばかりが目立った。その日は、数々の女性達とお楽しみをしている日と重なっている。私はその履歴も逐一写真に残した。  これだけあれば十分だろう。だが、念には念を、と彼のバッグを探った。  バッグの小さなポケットの中に銀の指輪が入ってるのを見つけた。それは先程見かけた妻との写真におさめられていた彼の手に光るものとまったく同じだった。  私はそれも写真におさめ、スマートフォンをクラッチバッグにしまうと、もとあった場所に戻し部屋を後にした。
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