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プレゼンの後、僕はすっかり Metis(メーティス)のヘビーユーザーとなり、あらゆる質問を投げかけていた。 「東京駅付近で、1,000円以下の、おいしくて栄養バランスの良いランチは?」 「電子書籍を読むためのタブレットを買い換えるなら、どの機種がいい?」 「とりあえず1話は見ておいた方が良い2023年夏アニメは?」  人生には、決めるべきこと・調べるべきことが多すぎる。  少し検索するだけで、ぐったりだ。    現代人が1日に触れる情報量は平安時代の一生分だと、誰かが言っていた。  脳はそこまで進化していないのだから、気をつけないとパンクしてしまう。  少しくらいAIに頼ったって、バチは当たるまい。むしろ、さほど重要ではない決断や調査はAIにアウトソースすることが、現代で壊れずに生きていくための処世術だと思う。  さらに、僕はこっそりと、仕事にもMetisを使っていた。会社には使用許可を得ていない。正面切って確認して、万が一にも許可が降りなかったら面倒だ。もちろん、守秘義務違反にならないよう、細心の注意を払っている。 「以下のURLの記事を、和訳・要約して」 「世界最大規模のデジタルマーケティングの展示会をいくつか教えて」 「メールの下書きを作って。条件はーー」  特に調査関連の仕事は、僕が30分かかるところ、5秒で返してくれる。  そんなの使わない方がおかしい。  たまに平然と嘘の情報を混ぜてくることがあるので、注意が必要だが。  おかげで、会社での僕の評価は急上昇中だ。  まず、仕事を終わらせるスピードが格段に速くなった。  そして、仕事に自信を持てるようになった。これまでは、メールにしろプレゼン資料にしろ、自分の作ったものが本当に正しいのか常に不安がつきものだった。だが、Metisの出した回答なら合格点はクリアしているはずだと、確信を持てた。  今日も定時の18時に仕事を終え、会社を後にする。  自分の仕事が早く終わって手が空いた分、他のメンバーの仕事も手伝った。  チーム全員が定時退社できるのはいい気分だ。それが普通でありたいものだけど。  帰宅ラッシュで混雑する前の電車に乗り込んだ僕は、どこに立ち寄るわけでもなく、まっすぐに帰宅した。  そして家でも、Metisにせっせと質問を送り続けていた。 「同期の女子が、自分に恋愛感情があるかどうか確認するには?」
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