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5.
この数ヶ月、 Metisとのやりとりは楽しかった。
どんな質問でも、納得できる答えを返してくれた。
おかげで、いまひとつパッとしなかった仕事もプライベートも、少しずつ充実し始めた。
損得に関係なく、すぐそばで何でも教えてくれる、知恵の女神。
それが突然「有料版にアップグレードしませんか?」だって?
「有料版」という言葉が目に入った瞬間、スッと冷めたのが自分でもわかった。
知恵の女神も、いきなり壺を売り付けようとすることがあるんだな。
無償の愛と知恵を授けてくれる女神なんて、この現代にいるわけないか。
僕のMetisに対するイメージは、一瞬で崩れ去った。
所詮は、Metisもビジネスなんだ。
裏に誰かがいて、ルールも仕組みも全部決められているんだ。
もしかしたら僕の質問も、裏にいる人たちには簡単に見られるのかもしれない。
規約にはなんて書いてあったっけ?
見られて困るような質問はしていないと思うが。
いや、「同期の恋愛感情を確認するには?」なんて、十分に恥ずかしい、見られたら困る質問と言えるかもしれない。そんなプライベートに踏み込んだ質問を投げかけてしまうほど、僕はMetisにどっぷり依存していたんだな。
なんだか、急にバカらしくなってしまった。
いっそ、Metisはアンインストールしてしまおう。
スマホを手に取り、Metisのアイコンを長押しする。
いや、ちょっと待ってよ。
調べ物だけは、Metisを使ったほうが、絶対にはかどる。
30分の仕事が、5秒で済むのだから。
アンインストールしてしまうのは、まだ早急かもしれない。
大事な意思決定の時に依存しなければいいんだ。
もう少し、アンインストールせずに少し残しておこう。
もう少しだけーー。
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