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 IT企業の聖地と言われる渋谷。  その渋谷の中でも一等地である、地下鉄渋谷駅直結のオフィスビル。  32階のワンフロアをまるまる独占したオフィスは、海外のデザイナーチームを招いて製作された。ひと目見てセンスの良さがわかる機能的で美しいオフィスは、たびたびメディアでも紹介された。  このフロアの所有者こそ、Metis(メーティス)の開発元である、株式会社ZEUS(ゼウス)だ。  オフィスの一角、透明性の高いガラス張りの10人用会議室に、男が7人。  週に一度の経営会議が行われている。 「無料会員から有料会員へのアップグレード施策、結果的に有料会員が8%増えましたね」 「売上金額にすると9%か」 「Metisが『ランダムで選出したユーザーに、有料アップグレードをほのめかすべしと』提案してきたときには半信半疑でしたが、やはり言う通りだったわけか」  男たちが、感嘆の声を漏らす。 「一方で、週間アクティブユーザーが23%減っているけれど、それはどう?」 「コストカット観点では、じつはプラス要因ですよ」 「無料会員の急増に伴うサーバーコスト増大は、前期からの課題でしたから」 「有料アップグレード提案について、SNSでは『Metisのイメージ毀損』など、ネガティブな意見が目立ちますが、変化に痛みは付き物ですからね」 「短期的な批判をものともせず、大胆な施策を決行し、中長期で結果を出し続けるとは」 「下手な人間より、よっぽど経営トップに向いてる。Metisの下なら、当分安泰だな」  会議室に響く、笑い声。 「で、次のテコ入れ施策はどうする?」 「Metisに聞いてみるとしますか」  男が、チャットボックスに質問を打ち込んでいく。  その様子を見ながら、別の男がつぶやく。 「すべてはMetisの言うとおり。信じるものは救われる、ってね」
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