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「ああぁ〜、会社に行きたくない!」  月曜、朝8時。  家を出るまで、まだあと30分もある。  身支度を済ませた僕は、20平米のワンルームマンションの自宅で、ひとり悶えていた。  憧れだった広告代理店に入社して、早1年。  ついにクライアントへのプレゼンテーション資料を任されることになった。  といっても、僕が担当するのは、先輩の提案資料に含まれるのうちの3スライドだが。  たった3スライド、そんなに心配するか? と言われるかもしれないが、 (クライアントから思わぬ質問をされて、答えられなかったらどうしよう?) (もし僕がミスったら、先輩に迷惑かかるんだよね?)  心配し始めると、まだ起こってもいないネガティブなシナリオが次々と溢れ出て止まらなくなる。この悪い癖は、子供の頃からなかなか治らない。  家を出るまであと20分。  少しでも気をまぎらわそうとスマホを手に取り、SNSやネットニュースを流し見る。 『A市、人工知能AI Metis(メーティス)の活用開始 地方自治体で初』 『大手B社、従業員の人工知能Metis使用禁止 データ流出を懸念』 『【Metisビジネス活用実践10選】日常や仕事で差がつく』  Metisか。最近よく話題になっている人工知能(AI)だ。  名前の由来は、ギリシャ神話の知恵の女神だそうだ。  チャット形式で質問すれば、まるで人間みたいに自然な会話ができると、人気が急上昇している。SNSのタイムラインでもよく見かけるようになった。  近いうちに試してみようと思いつつ、機会を逃していた。  記事タイトルの「仕事でも差がつく」というキャッチコピーが目に留まる。  AIのチャットシステムなんて、お遊びの延長だと思っていたけど。  じつはみんな、仕事にも使っているのだろうか。    仕事で困ったらAIに質問すれば助けてもらえるなんて、いよいよマンガの世界だな。  というか、今がまさに、使うべきときなのでは?    もう何をしていても、プレゼンのことが頭をよぎり、緊張と不安が止まらない。  なんでもいいから、気を紛らわせたかった。   吸い寄せられるようにアプリをダウンロードし、アカウント登録する。  シンプルなモノトーンデザインのチャットシステム。  一目でそれと分かる入力欄に、フリック入力で手早く質問を打ち込む。 「プレゼンで緊張しない方法」
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